“飛ばないバット”で本塁打量産 MVPも0発→3発…阪神Jr.打線を変えた数センチの工夫

5戦3発でMVPの山本怜唯「指1~2本分短く持つようにしました」
NPB12球団などが小学生のジュニアチームを結成し日本一の座を争う「NPBジュニアトーナメント KONAMI CUP 2025」の決勝戦が29日に神宮球場で行われ、阪神タイガースジュニアが6-4で福岡ソフトバンクホークスジュニアを撃破。3年ぶり2度目の優勝を飾った。最優秀選手には5試合で3本塁打を放った山本怜唯(れい)選手が選出された。20試合近く行った練習試合ではノーアーチだった“サトテル2世”を覚醒に導いた工夫とは――。
この猛打爆発は、誰も予想していなかった。阪神ジュニア打線はグループリーグを含む5試合で計30得点(1試合平均6得点)。6選手が計9本塁打を放った。
チームを率いた玉置隆監督は「大会開幕前は本当に打てませんでした。練習試合を20戦近くやりましたが、完封されるか、何とか1、2点取れるかで、少ない点を先に取って守り抜く戦い方しかできないと思っていました。だからこそ“先手必勝”をチームのスローガンに掲げたのです。(練習試合での)本塁打は(主将の)香田績(いと)くんの2本だけで、大会でホームランを打った6人は全員ノーアーチでした」と明かした。
その中でも最多の3本塁打を量産した山本は「練習試合で本塁打を打てなかったので、大会で3本打てたことには自分でもびっくりしています」と率直に胸の内を明かした。
“打線豹変”のきっかけをつくったのも山本だった。「最初はバットをグリップエンドいっぱい長く持っていたのですが、ちょっとボールに押し込まれる感じがしたので、指1~2本分短く持つようにしました」と明かす。
この変化を、玉置監督ら首脳陣は見逃さなかった。指揮官は「(山本)怜唯くんはもともと、打てないチームの中で1人だけ打っていたのです。ホームランこそ出ないものの、ヒットはポンポン打っていた。その怜唯くんと(4番の馬野)心輝(しき)くんの2人が真っ先にバットを短く持ち始めました。われわれは他の選手に『これだけ打っている怜唯が短く持っているじゃないか』と見習わせるだけでよかったのです」と語る。

「いい感じにバットの芯に当たり、打球が伸びるようになりました」
NPBジュニアトーナメントでは2022年から、打球部分にウレタン素材などを配した複合型の“飛ぶバット”使用を禁止している。その後を追うように、全日本軟式野球連盟はまず2025年から大人用の高反発バットを禁止。2029年以降は小学生軟式用を含めて全面禁止に踏み切ることを決めている。
玉置監督は「現状では、普段は所属チームで短くて軽い小学生用の“飛ぶバット”を使っている選手が多いのですが、阪神ジュニアに選ばれるとバットが変わり、全然対応できなくなる。バットが長くなっていることを感覚的に理解できず、長く持ったままで扱えずにいるのです。そこで2人が真っ先に対応し、他の選手も短く持ち始めました」と説明する。
山本は「いい感じにバットの芯に当たり、打球が伸びるようになりました」とうなずく。「憧れの選手は阪神の佐藤輝明さん」と語るだけあって、大会中はまさに“サトテル”を彷彿とさせる豪打だった。
阪神のトップチームは2025年、2年ぶりのリーグ優勝を果たしたが、日本シリーズではソフトバンクに1勝4敗と及ばず日本一を逃した。阪神ジュニアは決勝の舞台でソフトバンクジュニアを相手に、“リベンジ”を果たした格好だ。わずか数センチの工夫で優勝を引き寄せた山本は「プロのトップチームが負けてしまったので、ジュニアは絶対勝って優勝しようと思っていました」と胸を張った。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)
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