“飛ぶバット”が3年後全面禁止、対応策は? スモール回帰へ危機感も…強豪監督の見解

2029年から小中で複合型バットが全面禁止…全軟連発表を受けての現場の声
3年後の2029年から、小・中学校の軟式野球で“飛ぶバット”が全面的に使えなくなる。全日本軟式野球連盟(JSBB)は2025年12月に、そういう趣旨の新ルール導入を発表。「選手の安全面を考慮」が理由で、2026年からの3年間は移行期間となる。現場では、どう受け止められているのか。約8700チームが加盟する学童野球(小学生)で、全国大会に出場歴のある監督たちに聞いた。
“飛ぶバット”とは、打球部にウレタンやスポンジなどの弾性体を使った「複合型バット」のことで、コロナ禍以降に爆発的にヒットしてきた。重さやサイズの違いから、「一般用(中学生以上)」と「ジュニア用(小学生用)」とがある。
JSBBは2025年から、学童野球での一般用複合型バットの使用を禁止したばかり。その影響は大きく、47都道府県の代表チームで日本一を決する「全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメント」でも、本塁打が激減した。全会場に両翼70メートルの特設フェンスがあるなかで、2024年は50試合で39本あった“サク越え”アーチが、2025年は52試合で18本と50パーセント以上も減った。
また、ジュニア用でも1本4万円以上する高値も“飛ぶバット”の特徴で、議論を招く要因でもあった。一方、打球の速さや飛距離が格段にアップすることから、一般用も使えた2024年までは都道府県大会以上でも打撃戦が激増し、「野球が変わった」との声も多数聞かれてきた。

「地域の大会でも、もはや(ジュニア用複合型バットは)チームに1本という感じですね。個人で保有かチームで保有かの違いや、本数にも差はあるでしょうけど、1本もないチームは珍しいと思います」
こう証言するのは、山梨県代表として2回の全国出場がある「ラウンダース」の日原宏幸監督だ。バントも盗塁も長打もあって、勝負強いのが例年のチームの特長で、2025年秋には5年生以下の関東大会で準優勝。複合型バットの全面禁止は3年後とあって「いまのところ、なにもしていません」と語る日原監督は、新ルールについて「個人的には残念です」と漏らした。
「小学生の多くは非力で小さい。それでも複合型バットで、打球が内野を越えていく場面も多かった。それが使えなくなると、外野も浅くなってライトゴロやセンターゴロも増えて、力のない子には面白味の何割かは欠けてしまうのかなと。5・6年生は確かに、危険性を伴う打球も増えてくるので、4年生以下は複合型バットもOK、というルールの補足もあっていいのかなとは思います」

飛ぶバットとの練習併用…全国大会で本塁打連発の“異例の記録”
2029年からは、以前のようにロースコアの試合とバントが激増する。そう予想するのは、昨夏の全日本学童で3回戦進出を果たした不動パイレーツ(東京)の田中和彦監督だ。
「日本人の長距離バッターが米国でも活躍している時代に、学童野球とはいえ、スモールベースボール一色になってしまうのは、すごく嫌ですね。少なくとも私の教え子たちには、バットとかルールとか関係なしに、ホームランを打てるようになる訓練を最優先にさせるつもりです」
先述のように、昨夏の全国大会は本塁打が半減したなかで、田中監督が率いるチームからは3試合で6本ものサク越え本塁打が生まれた。極めて異例の記録だったが、その大きな要因は「体に近いポイントで、バットの芯でボールを捉えて飛ばす技術と感覚を高めてきたこと」(同監督)にあるという。
そのスキルアップの手段の1つが、ジュニア用複合型バットとそれ以外のバット(金属や木製など)との併用。公式戦は複合型バットを使うが、練習では期間や目的に則っての使い分けが効果的だったという。
「基本はひたすら、木製か金属バットで練習。たまに複合型バットを使うと、打球がいつもより飛ぶので本人たちはワクワクするし、その感覚を脳が学習するみたいですね。練習試合でも1打席目だけは複合バットにすると、多少のボール球でも強く振る習慣が根づいてきたり……」
そう語る田中監督は、2026年度は3年生・4年生チームを率いる予定。現3年生たちが6年生になると複合型バットが大会で使えなくなるが、商品が市場にあれば、練習では従来同様に併用していくという。

新バット登場も見越して? あえてノーリアクションの全国準Vチーム
愛知県の北名古屋ドリームスは、2021年の全国大会で準優勝。決勝を含む6試合で7本塁打など、強打が伝統のチームだ。岡秀信監督は、各カテゴリーに専任の指導者を配しての段階的な育成システムを確立し、学年10人強の安定した活動を実現している。そんな智将は、3年後への備えは「なにもないです」と断言した。
「まず、3年後には複合型バットがもう売られてないと思うんです。ウチはチームでバットを購入しているので、あと3年間は公式戦で使えるだけの本数は確保します。でも、ネット上で1本20万円もするようなものには手が出ませんので」
岡監督のチームでは、サイズと重さがジュニア用複合型バットと同一の木製バットを特注で購入。練習の大半はそれを使っているという。
「複合型バットの一般用も使えた一昨年までは、ウチも間違いなく頼っていました。中間層の非力な子も、それなりの打球を飛ばせるし、ラッキーパンチで勝ち負けがひっくり返るという面白さも。複合型バットがなくなれば、バッテリーのしっかりしたチームが勝ち進むでしょうけど、各メーカーから新たに飛ぶバットが開発される気もします。要するに、あれこれする必要はないというのが現時点の考えです」

「全軟連のルールに従うことが指導の目的ではない」と全国V2名将
また、それとは別の理由から、同様に「ノーリアクション」を強調したのは、滋賀県の多賀少年野球クラブの辻正人監督だ。
「私たち指導者の使命は、子どもたちに野球をしっかり教えること。野球の魅力や面白さに気づかせてあげることがすべてなんです。全軟連のルールに従うことが指導の目的ではないし、全軟連イコール、学童野球でもないですから」
辻監督は理にかなった先進的な取り組みを主導し、全国大会2連覇など高い実績も誇る。複合型バットについてはチームでの取り決めはなく、以前から各家庭の判断に委ねているという。
「最近は全軟連に非加盟で活動するチームとか、独自にやる大会も増えていますよね。その目的は、子どもに野球を楽しんでもらうことにあるのだと思います」
より踏み込んで語る辻監督だが、全軟連を全否定しているわけではない。近年は野球の普及活動にも熱心で、求められれば各地の指導者向けの講習会や講演にも協力している。ルールに縛られて不満や愚痴を言い合ったり、ルールの抜け道を探したりする労力があれば、子どもたちを野球に夢中にさせるために使うべき、と説いている。
割合として圧倒的に多い、市区町村大会クラスの現場を回れば、また違った声も聞かれることだろう。3年後も見据えながら、複合型バットを取り巻く環境と野球の変化にも注目していきたい。
〇大久保克哉(おおくぼ・かつや)1971年生まれ、千葉県出身。東洋大卒業後に地方紙記者やフリーライターを経て、ベースボール・マガジン社の「週刊ベースボール」で千葉ロッテと大学野球を担当。小・中の軟式野球専門誌「ヒットエンドラン」、「ランニング・マガジン」で編集長。現在は野球用具メーカー、フィールドフォース社の「学童野球メディア」にて編集・執筆中。JSPO公認コーチ3。
(大久保克哉 / Katsuya Okubo)
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