プロ並みの“実戦至上主義” アウトプット重視…女子中学生を育てる超効率マネジメント

三鷹クラブWの選手たちと尾美一郎監督(左)【写真:吉田三鈴】
三鷹クラブWの選手たちと尾美一郎監督(左)【写真:吉田三鈴】

練習量と実戦機会を確保…徹底した効率化図る東京・三鷹クラブW

 東京都三鷹市を拠点とする中学軟式女子野球チーム「三鷹クラブW(ダブリュー)」は、全国大会出場20回、関東女子軟式野球連盟春季大会6連覇中の名門だ。尾美一郎監督の指導は、一見すると「安易に選手を褒めない厳格さ」と「徹底した規律」という従来型な気風を残しているように見えるが、その実態は現代に合わせてアップデートされている。かつての根性論とは異なる、令和版・選手ファーストの環境が整うチームの強さの秘密に迫った。

 2009年創部の三鷹クラブWの最大の特徴は、徹底した実戦至上主義と、効率的なマネジメントにある。2011年から指導に携わる尾美監督によると、「多い日は1日4試合ある」といい、2025年の試合数は135と、まるでプロ野球並みの数字だ。これほどに数をこなす理由は、すべての選手に等しく実戦機会を与えるためだという。

 現在29人(1、2年生のみ)が在籍中のチームで、「これだけ人数がいると、試合に出場できないんじゃないかと思われるでしょう。しかし、うちで出られないことはありません」と断言する。なぜなら2チームに分けて、一方は4試合、もう一方は3試合と、相手や場所を変えてでも「1日6、7試合」を同時に消化しているからだ。

 さらに、その活動範囲は近隣だけに留まらない。「都内や近県だけで考えると、2試合しか組めないこともある。だから出ていくんですよ、地方に」という言葉どおり、お声がかかれば三重、兵庫、栃木と全国各地へ遠征をしてきた。

1秒も無駄にしない姿勢で指導にあたる尾美監督【写真:吉田三鈴】
1秒も無駄にしない姿勢で指導にあたる尾美監督【写真:吉田三鈴】

全員フル稼働で、選手に挑戦・失敗・競争を促す

 監督自身のタイムスケジュールも忙しい。「1日練習や、4試合ある日は昼食をとりません。試合と試合の間は10分程度しかないので、その間にバーッとメンバー表を書いている」そうで、密度の濃い環境下で、選手は常に実戦の緊張感に身を置くことができているのだ。

「15人で4試合をこなすとなると、全員フル稼働ですよね。その中で普段とは違うポジションを挑戦させ、失敗させたり、選手同士を競争させたり……。いろいろ試します。1試合目の結果を見て、2試合目のメンバーを組みますから、僕も気を抜く時間はないですね」

 たとえ失敗しても、その日の次の試合で即座に挑戦できるという、圧倒的なアウトプットの場が確立していることが、同クラブが全国区の強豪であり続け、多くの逸材を次のステージへ輩出する最大の原動力といえるだろう。

 圧倒的な試合数をこなすためには、当然ながら質の高い練習の積み重ねが不可欠だ。限られたグラウンドの使用時間を1秒でも無駄にしないよう、三鷹クラブWでは、一斉に昼休憩はとらない。チームを2班に分け、食事と練習を交互に行うことで、常にグラウンドを空けない状態を維持する。

三鷹クラブWの捕手練習の様子【写真:吉田三鈴】
三鷹クラブWの捕手練習の様子【写真:吉田三鈴】

特別な練習はない、当たり前のことを当たり前にこなす

 そして、普段の練習メニューは「基本的なことしかやらない」。それは、当たり前のことを当たり前にこなし、ワンプレーを大切にする考えが根底にあるから。しかし、その精度を高めるための仕組みは、極めて合理的だ。

 守備練習においては、投手、捕手、内野、外野を完全に切り分け、ポジションごとに分かれて同時並行的に各メニューを消化する。また、大人数であることを活かし、走者を置いた実戦形式(ケースノック)に重点を置き、状況判断能力を磨き上げていく。

 この効率化の追求は、打撃練習にも及ぶ。各自の1打席の持ち時間は別の選手がストップウォッチで測り、1人でだらだらと続けることは許されない。

 選手の待ち時間を極力排除し、ボールに触れる回数を最大化するためのマネジメントの工夫によって、全選手の稼働率を引き上げているのだ。

尾美監督の指導を軸とした“三鷹の空気感”が原動力となる【写真:チーム提供】
尾美監督の指導を軸とした“三鷹の空気感”が原動力となる【写真:チーム提供】

監督を支える、情熱に動かされたコーチや保護者

 そんな尾美監督を支えるのは、5人のコーチ陣だ。いずれも子どもが三鷹クラブWの卒業生で、女子の指導に対する理解と経験がある。「男子の指導とはアプローチも異なる。だからこそ預ける保護者にも安心してお任せいただきたい」という考えは、尾美監督が大切にする方針の1つで、自身だけでは行き届かない、きめ細かなフォロー体制に自信を持つ。

 指導歴10年、チームの広報担当でもある野村和也コーチは、「監督が厳しい声を飛ばす場面もありますが、選手への深い愛ゆえのもの。令和の今、なかなか伝わりにくいかもしれませんが、自分の娘が巣立った親としての立場からも、その真意を選手にいつか理解してもらえたら」と話す。

 実際、取材日の練習中には、グラウンドへ顔を出す卒業生の姿や、お手伝いとして参加する現役選手の多くの保護者の姿があった。

「われわれ指導者の姿を見て、保護者の方も『自分たちにできることはないか』と考えてくれている。だから、いつの間にか役割が決まって、強制じゃないからこそ、自主的に動いてくれるんだと思います」

 監督、コーチ、そして保護者・OGが一体となり、同じ熱量で選手の成長を願う、強固な信頼関係とサポート体制。この目に見えない“三鷹の空気感”こそが、チームを支える真の原動力となっているのかもしれない。

(吉田三鈴 / Misuzu Yoshida)

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