2014年のオリックスは、ソフトバンクと歴史的なデッドヒートを演じた。「10・2」の死闘の末にあと一歩で優勝を逃した悔しさは、チームとフロントに「来年こそは」という並々ならぬ執念を植え付けた。悲願のVに向けオフには球団総出となり、総額約30億円とも言われた超大型補強を決行。当時の球団本部長・瀬戸山隆三氏が、“狂乱のオフ”と、その後に待ち受けていた残酷な結末を振り返る。
死闘の末、リーグ制覇を逃した2014年。オリックスは優勝したソフトバンクを上回る80勝を挙げながらも、勝率の差でゲーム差なしの2位に終わった。戦前の予想を覆す躍進ぶりに宮内義彦オーナーからは「来年こそは必ず優勝」と、大号令が下った。
同年オフの補強費用はまさに青天井だった。アスレチックス傘下のマイナーでプレーしていた中島裕之、日本ハムからFA宣言した小谷野栄一、DeNAを退団したトニ・ブランコ、広島のブライアン・バリントンを次々に獲得。さらにFA宣言したエース・金子千尋を残留させることに成功した。“新戦力”にかかった費用は総額30億円を超えるとも言われていた。
「もう一歩で優勝というところまできたので、宮内オーナー以下、みんなが来年は絶対に優勝できるぞと、盛り上がっていた。あと1勝でもしていれば優勝、その1勝をどうやって埋めるか。ある程度の基盤はできていたので、あとは『名の知れた実績のある選手をみんな獲ろう』という方針になった。じゃあ、獲れそうな選手は全部獲りにいきますと動いたら、結果的に全員獲れてしまった」
他球団との凄絶なマネーゲームを制し、次々とビッグネームを獲得していった。特に米球界から復帰した中島の獲得劇は極秘裏に進められた。当時、一部メディアが情報を掴みかけた際、瀬戸山氏は「今はまだ書かないでくれ。書いたら獲得が白紙になる」と、ストップをかけたほど。事実、中島サイドは情報漏洩を極端に嫌っており、徹底した情報統制が功を奏しての獲得劇だった。
チームカラーの崩壊と、開幕直後に訪れた悲劇
誰もが2015年の圧倒的な強さを信じて疑わなかった。だが、現場を預かる森脇浩司監督の胸中は複雑だったはずだ。足を使い、バッテリーを含めた守備力で勝つプレースタイルから一転、長打力に偏った布陣。起用しなければならない“大物”たちに溢れ、チームのバランスは完全に歪んでいた。
そして、迎えた2015年シーズン。フロントの期待とファンの熱狂は、春先のグラウンドであっけなく散ることになる。ブランコは開幕から4試合に出場し左ひざ痛で抹消、4月には中島が右足の肉離れ、5月に入ると小谷野が左足痛、バリントンが右肩の違和感と、期待された新戦力が次々にグラウンドから消えていった。
「結果的に全員獲れてしまい、森脇監督も色々と使おうと工夫してくれましたが、みんな往年の力は持っていませんでした。ブランコなんかは杖をついてグラウンドに来ていたくらいですから。結局、獲ってきた選手たちが1、2か月で全員、怪我でいなくなってしまった」
頼みの綱だったエース金子も、オフの右肘手術の影響で本来の投球を取り戻せず、この年を境に全盛期の輝きを失っていく。前年、大車輪の活躍を見せたリリーフ陣も、登板過多が原因となり不振に陥った。主力を欠いたチームの歯車は狂い、負けの連鎖に飲み込まれていった。補強の大失敗――。結果を残せなければ、誰かが責任を取らなければならない。それがプロ野球の世界だ。
東京ドームホテルで解任通告「森脇監督だけの責任ではありません」
チームの低迷を受け、球団フロント内では激しいハレーションが起きていた。役員会議では「あんだけ補強したのにどうするつもりだ」と厳しい追及を受けた。まるで尋問のような張り詰めた空気の中、事態は最悪の結末へと向かっていく。シーズン89試合を残した時点で自力優勝の可能性が消滅すると、6月2日に森脇監督の休養が発表された。
球団発表は「休養」だが、これは事実上の解任だった。通告は、遠征先の東京で行われた。その前日、移動するための新神戸駅で森脇監督は番記者と喫茶店に入り「現状は苦しいが、受けて立つしかない。これから巻き返すしかない」と、誓い合った直後のことだった。
休養会見の前日、東京ドームホテルの一室で、瀬戸山氏は苦渋の決断を指揮官に伝えなければならなかった。
「森脇監督にとってはえらい迷惑な話ですよ。あれだけの補強をして、全員がこけたらチームは負けるのは当然です。監督だけの責任ではありません。気の毒でしたし、結局は私もその責任を取る形で、徐々にチームから離れていくことになりました」
金に糸目をつけず、勝利を渇望した狂乱のオフ。名前や実績だけでは勝てないという現実を、この年のオリックスは身をもって証明することになった。2015年6月からは福良ヘッドコーチが代行監督を務め最終的にチームは5位に終わる。2014年に輝きを放ったチームはわずか1年で解体し、ここから6年連続Bクラスと再び暗黒時代に突入することになった。