明らか大誤審、ナインは試合続行“拒否” 物々しいグラウンドで起きた「伝説の10分」
1996年オリの日本一メンバー、藤井康雄氏が日本Sを回顧
オリックスが26年ぶりの日本一に輝いて幕を閉じた2022年のプロ野球。中嶋聡監督の“ナカジマジック”采配が見事に功を奏したが、前回日本一になった1996年は仰木彬監督の“仰木マジック”が一世を風靡した。その巨人との日本シリーズでは、3勝1敗で迎えた神戸での第5戦で指揮官が見せた猛抗議は語り草になっている。当時のV戦士であり“ミスターブルーウェーブ”と呼ばれた藤井康雄氏が「あの時」を振り返った。
「実際に捕っていましたからね。監督の、あの抗議にはみんな納得したし、闘争心がより沸き立った気がしましたね」。藤井氏がそう話したシーンは、5-1でオリックスがリードして迎えた4回1死一、三塁、巨人の攻撃中に起きた。井上のセンターへの打球を本西が地面すれすれでダイレクトキャッチしたように見えたが、ヒット判定。これに本西はグラブを投げて不満をあらわ、仰木監督もベンチを飛び出した。
当時はリプレー検証を求めるリクエスト制度はもちろんない。だが、VTRを見れば、一目瞭然だった。オリックスサイドは誰もがノーバウンドのアウトを確信。仰木監督は厳しい表情で審判団に詰め寄り、その後、ナインを全員、ベンチに引き揚げさせた。「ここは選手のために言わなきゃいけないっていうのを仰木さんは見せてくれたと思う。選手の必死のプレーに対して、そこまで思ってくれているんだ、とうれしかったですね」。
しかも指揮官は冷静だった。抗議の間にリリーフ投手もしっかり準備させ、一度切れかかったナインの気持ちが、これによって、それまで以上に高まったところを見計らったかのように約10分後に試合再開。判定は変わらなかったが、実際にチームの一丸ムードばかりが増して、そのまま勝利して、日本一をつかんだ。藤井氏は「自分たちはとにかく早く決めたかった。3勝1敗だったからといってゆとりなんてない。短期決戦はワンプレーで流れが変わる。監督はそういうことも考えていたと思います。近鉄のこともありましたからね」という。