選手の命に関わるにもかかわらず…判断が極めて難しい「脳震盪」の怖さ
明確な基準存在せず 頼りは本人の自覚症状や申告だけ
NPBでの試合出場登録に関し採用された脳震盪特例措置。聞いたことのある人は多いだろうが、詳細まで取り上げられることはない。しかし「脳震盪」という漢字3文字は、アスリートの命まで左右することを忘れてはならない。
18年も起こってしまった頭部死球による脳震盪。乾いた音が球場中に響き渡った。4月3日神宮球場、7回裏、ヤクルト川端慎吾は頭部に死球を受けその場に倒れこんだ。しばらく起き上がれず、担架で退場。翌日、出場選手登録を抹消された。
この際に適用されたのが2016年から導入された脳震盪特例措置。これは通常、出場選手登録抹消された場合は10日間再登録できないが、脳震盪に限り期間を短縮できるというものだ。
今、スポーツ界では脳震盪の危険性について、大きく議論されはじめている。これは野球界も同様である。川端の治療に携わったのは朝本俊司先生。朝本先生は現在、牧田総合病院脳神経外科脊椎センター部長として日々、様々な症例に接している。また日本アイスホッケー連盟医科学委員やアジアリーグ・東北フリーブレイズチームドクターとして現場で選手とも接している。川端の例のみでなく、16年に脳震盪特例措置適用の最初の選手となった今浪隆博の治療にも携わった。
朝本先生は、脳震盪治療の第一人者として現在のスポーツ界に警鐘を鳴らす。
「脳震盪は非常に大変なことだし、簡単なものでもない。何が一番難しいのかというと、現状、脳震盪と判断できる明確な基準が存在しないということ。アスリート自身の自覚症状や申告に頼らざるをえないということです。
周囲が脳震盪が完治したと考えても、本人が症状を感じたら止めないといけない。例えばプロ選手の場合、契約問題が絡む場合もある。出場しなくても報酬が出る場合や、出場に応じての場合など様々。選手のみでなく、契約したチームにとっても大きな問題となるわけです」
プロ野球界では16年からから脳震盪特例措置も施行されているが、それだけではとても十二分ではない。問題山積みなのが現状だ
スポーツ界で脳震盪が大きく扱われるきっかけになったのは、15年に公開された一本の映画だった。ウイル・スミス主演の「コンカッション」。NFLで殿堂入りまでしたかつて実在したスター選手、マイク・ウェブスター。晩年、認知症などの症状を発症し、最後はホームレスになり死去した。ウェブスターを検死した結果、脳震盪の兆候がみられ、これをきっかけに実際にNFLに対しての集団賠償訴訟が起こった。