努力が結果につながらず…名門野球部の元選手が痛感した“非効率” トレーナーを志す転機
元明徳義塾・久松宏輝氏 野球塾「ANAZING」でトレーナー
子どもたちの努力を笑顔に変えたい。名門・明徳義塾高の野球部出身で、現在は野球塾「AMAZING」でトレーナーをしている久松宏輝さんは大学2年の時に人生の転機があった。小学生時代に日課にしていた腕立て伏せ150回が、パフォーマンスにつながる内容ではなかったと気付いた。自分のような経験をする少年野球の選手を1人でも減らそうと、効果の高いトレーニング方法を伝えている。
大阪府の強豪・東淀川ボーイズから高知・明徳義塾高を経て、野球推薦で大阪産業大学に進学した。久松さんが歩んできたキャリアは華やかに見える。ただ、プロや社会人の名門でプレーするレベルの選手を目の当たりにし、自身の限界を感じていた。明徳義塾では内野手としてプレーしたが、レギュラーの壁は厚かった。1学年下には現在、西武に所属する岸潤一郎外野手がいる。
「明徳義塾で周りのレベルの高さを知りました。大学野球で結果を残して社会人に行ける自信はなかったので、将来に生きることを始めたいと思いました」
大学では体のメカニズムやコーチングを学ぶ学科だったこともあり、久松さんはフィットネスクラブでアルバイトを始めた。そこで、衝撃を受けた。
「小学生の頃、毎日150回の腕立て伏せを日課にしていました。中学や高校でも筋力をつけてきたのに、正しい腕立て伏せの仕方を教わった時、20回しかできませんでした。今まで続けてきたトレーニングが、いかに非効率だったのかを知りました」
転機となった出会い…大阪桐蔭の元主将・廣畑実氏とタッグ
久松さんは漠然と「自分のトレーニングは野球のパフォーマンスにつながっていないのではないか」と感じていた。フィットネスクラブで腕立て伏せをする時の手の位置や姿勢、筋肉の使い方などを学び、長年の疑問が解決した。そして、新たな思いが芽生えた。
「今までのトレーニングは回数が目的になっていて、理にかなったやり方ではありませんでした。選手の努力が報われる環境をつくりたいと思いました」
プレーヤーに区切りをつけ、トレーナーになるための勉強を始めた。大学3年の頃にはジュニアを対象にしたスクールを開いて、体の使い方やトレーニング法を指導。大学卒業後は母校・明徳義塾高野球部の選手やプロ野球選手をはじめ、幅広いカテゴリーの選手をサポートしている。
トレーナーとして活動をする中で、2019年に大きな出会いが訪れた。大阪桐蔭高元野球部の幼馴染を通じて、廣畑実さんと出会った。廣畑さんは大阪桐蔭の元主将で、亜細亜大、JR東海とアマチュア野球界の“王道”を歩んだ。現役引退後は野球塾「AMAZING」や自身のユーチューブチャンネルなどで技術や知識を伝えている。自身の体で打撃理論を証明する廣畑さんに「俺のトレーニングを手伝ってほしい」と依頼を受けた。
久松さんのトレーニング方法に共感した廣畑さんから野球塾での選手指導も依頼され、現在も二人三脚で選手をサポートしている。小中学生の指導で感じるのは、足首や股関節の硬さ。回旋動作を苦手にする選手も多いという。久松さんは「小さい頃に運動する機会が減っている影響で、体の動かし方が分からないのだと思います。体を上手く使えず、腕だけで投げたり打ったりする選手が多いです」と話す。
「自分のような経験を子どもたちにさせたくない」
久松さんは体を大きく使ったり、動きのバリエーションを増やしたりするトレーニングを重視し、年代に合わせたメニューを組んでいる。ドッジボールを使ったトレーニングは、その1つ。腕や指先で操れる野球ボールと違って、股関節や胸周りを上手く使わないと強いボールを投げられない。野球の動きや道具に捉われない指導をしている。
「自分の体を最大限に使った上で筋力をつけた方が理にかなっていて、出力がより高くなります。体を思い通りに動かせず筋力をつけると力に頼ってしまいます。小学生までは効果が低い筋力トレーニングをするより、体を操作する技術を習得した方が将来的にパフォーマンスは伸びると考えています」
費やす時間は同じでも、トレーニングの仕方で上達のスピードは変わる。「自分のような経験や思いを今の子どもたちにさせたくないですね」と久松さん。選手の努力を形にする。
〇プロフィール
1995年6月14日、大阪府生まれ。小学1年で少年野球チームに入り、小学5年夏に硬式へ転向。中学生の時は大阪府の強豪チーム「東淀川ボーイズ」でプレー。高校は高知・明徳義塾に進学。大阪産業大学でも野球を続けたが、2年の時にトレーナーに興味を持って勉強を始める。フィットネスクラブなどで経験を積み、2019年から廣畑実さんが運営する野球塾「AMAZING」でトレーニングを担当。
(間淳 / Jun Aida)
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