育成の根幹は「少年野球もプロも同じ」 阪神・矢野前監督が語る指導の“普遍性”
矢野前監督の要望で実現…滋賀・多賀少年野球クラブの練習見学
失敗を恐れ、指導者の顔色を伺いながらプレーする子どもたちを見たくない。阪神の前監督で野球解説者の矢野燿大氏が15日、「世界一楽しく! 世界一強く!」をモットーにする滋賀・多賀少年野球クラブの練習を視察した。選手としても指導者としてもプロ野球界の先頭を歩んだ矢野氏は、自らの原点とする少年野球の現状を学び、野球界への恩返しを描いている。
子どもたちの動きを鋭い視線で追い、時に笑顔で話しかける。矢野氏は腰をかがめて選手と目線の高さを合わせ「腕の振りが良くなった」「いい動きだ」と声をかけた。訪れたのは、滋賀県多賀町にある小学生軟式野球チーム「多賀少年野球クラブ」。楽しさと強さを両立させて毎年のように全国大会に出場している強豪。矢野氏はチームを率いる辻正人監督の指導法や練習メニューに興味を持っていた。今年2月に初めて話をして一層関心が高まり、練習見学を辻監督に要望した。
多賀少年野球クラブには園児から小学6年生まで120人以上が所属する。練習時間は園児や低学年が1時間半から2時間、高学年は午後から夕方までの半日。矢野氏は、知識や経験の少ない子どもたちの自主性を、辻監督がどのように育んでいるのかを直接見たかったという。
「選手の可能性を伸ばす指導、やらせるのではなく自分で取り組む練習の大切さは少年野球もプロも同じだと思っています。プロの世界にいても感じましたが、指導者に強制される選手は、持っている能力を出し切れずに終わってしまいます」
選手の遊び心や競争心をくすぐる練習メニュー、チャレンジした姿勢やできるようになったプレーに対して大きな声で褒める辻監督の指導に、矢野氏は笑顔を見せたり、うなずいたりする。「私は選手の可能性を信じきる指導や自主性を大事にしてきました。周囲からは『それで勝てるのか』という声も聞こえてきましたが、自主性を促す指導の方が選手は成長するし、自立型の人間になっていけると考えています」。辻監督の方針は、自身がプロの世界で選手に伝えてきたことと重なる部分は多かった。
競技人口減少に危機感…少年野球を学んで野球界に恩返し
矢野氏は、人口減少のスピード以上に競技人口が減っている少年野球の現状を憂慮している。そして、エゴと言わざるを得ない一部の指導者が減少を加速させる要因になっていると感じ、少年野球に関する報道や社会の風潮にも違和感を覚えているという。
「褒めること自体が目的ではなく、選手の可能性を引き出す手段が褒めることにあるわけです。個々の選手の可能性は野球が上手くなる可能性だけではなく、あきらめないでやり抜く選手にも、大きな声で味方を応援できる選手にも可能性を感じます。大事なのは上手い下手にかかわらず、選手の成長した部分を認めることです。野球の楽しさを伝えられる指導者は自然と褒めますし、選手は自発的に練習して上達するはずです」
この日、矢野氏は朝から夕方まで丸一日、園児から小学6年生までの練習を見学した。「子どもたちの指導に迷っている人や悩んでいる人が、多賀少年野球クラブのような指導で、上手くもなるし、心も成長していけることに気付いてもらえたらうれしいです。色んな人からサポートを受けてプロ野球選手になり、監督まで務めさせてもらった自分が発信して、子どもたちが楽しく自主的に野球をする動きを広げることが役割だと考えています」。多賀少年野球クラブへの訪問は、自主性やチャレンジ精神の大切さを再認識する時間となった。
(間淳 / Jun Aida)
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