非力でも“振り負けない”打撃の要点 激戦区勝ち抜き日本一…強豪学童の重視する「音」

大阪・新家スターズの練習の様子【写真:高橋幸司】
大阪・新家スターズの練習の様子【写真:高橋幸司】

2023年日本一の大阪・新家スターズ…千代松剛史監督は「指導者も成長せんと」

 日本一チームの土台には、徹底した打撃練習がある。大阪・泉南市の学童野球チーム「新家スターズ」は昨年、“小学生の甲子園”「全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメント」で初優勝し、さらに「高野山旗全国学童軟式野球大会」「くら寿司トーナメントポップアスリートカップ」でも頂点に立って“全国3冠”を達成した。「選手の成長だけではない、指導者も成長せんと」と語る就任17年目の千代松剛史監督に、指導論や練習方針を聞いた。

 新家スターズは1979年に千代松監督の父が創設。監督自身も幼い頃にプレーした“故郷”でもある。自身の長男が入団したのを期に、指導役を引き受けたのは2007年のことだった。

「監督をやろうなんて気持ちは、初めは全くなかったですけどね。子どもが楽しんでいるのを見ているうちに、自分が小さかった頃を思い出して、いいなと思ったし、そこから徐々に『勝ちたいな』となっていきました」。息子同士が同級生の吉野谷幸太コーチ(事務局長兼務)ら指導陣、保護者の協力を得ながらチームを成長させてきた。

 就任当初は、全国に出場できるような力では到底なかった。何せ、地元・大阪を勝ち抜くだけでも容易ではない。昨年の新家スターズを含めて、大阪勢の全日本学童優勝は47都道府県ダントツの13回もある。千代松監督は、そのうち7度の優勝を誇る長曽根ストロングスの練習を視察させてもらうなど、他チームから強さのエッセンスを学んだ。「厳しさのなかに、優しさも上手に交えながら育てていく。そういうチームが日本一になれるんやなと思いました」。

 関係者の尽力により、草木の生い茂った土地を切り開いて専用グラウンドができたのが10年ほど前。そこから、週末には実戦、平日には課題克服という練習サイクルが出来上がった。「レベルの高い大阪のローカル大会で勝てるようになり、ようやく自分なりのチームになってきたかなという手応えが出てきましたね」。全国の舞台に進出するようになると、2015年、2019年に全国スポーツ少年団交流大会で優勝。全日本学童でも2022年にベスト4と着実に結果を残してきた。

 昨年夏の日本一もまた、年初に大阪で行われた、全国の強豪が集まる交流試合での経験が大きかったと語る。

「やっぱり子どもたち同士で切磋琢磨するんですよ。『俺らも頑張るから、みんなも全国に来いよ』って。蓋を開けてみれば、そんな会話を交わしたチーム同士で全国でも上位に来ている。監督同士も互いにアドバイスをしたり、聞いたり。選手の成長だけでは全国では勝てない。指導者も成長せんと」

投球マシンを複数備えた打撃練習場の建屋【写真:高橋幸司】
投球マシンを複数備えた打撃練習場の建屋【写真:高橋幸司】

バッティングでチェックするのは「音がどこで鳴るか」

 新家スターズには現在、5・6年生が約25人、中・低学年を含めると60人ほどが在籍する。5・6年生が参加する平日練習(火・水・木曜)は夕方5時から約3時間。現在は実戦的な練習が多いが、オフシーズンには、所有する複数台の投球マシンをフル回転させるなどして打撃練習をみっちりと行う。

 打撃でチェックするのは、適切なポイントでバットの音が鳴っているかどうかだという。小学生はまだ非力で、バットに振り負けてしまう子もいる。「打撃の基本はセンター方向に打ち返すこと。そのためにも、置きティーを使い、ポイントのところでビュッと音が鳴る、強いスイングができるように教えています」。大切なのは、あくまで投手との対戦をイメージすること。「『ボールをよく見て打て』なんて言うけれど、最後まで目でボールを追っていたら打てない。意味のないことはするな、とはよく言いますね」。

 とはいえ、実際の試合では「打てたらラッキーくらいにしか考えていません」。走者が出れば、犠打かゴロで1死三塁の形を作りコツコツ点を重ね、投手中心に守り切ることを重視。「しっかり相手を抑え込んだ上で、練習でやってきた打撃も重なれば勝てる」イメージだという。

 4年生以下の子たちは週末のみ、新家小学校のグラウンドを使って練習をする。徹底しているのは「感覚を磨く」こと。鉄棒や登り棒など“昔ながら”の遊具で遊ばせることで運動能力を高めている。「そこは、昭和の子どもの育て方ですね(笑)」。また、小さい子は飽きっぽいため、集中力が切れてきたら即別メニューに切り替えることも意識している。

昨夏全日本学童で指揮を執る千代松剛史監督【写真:加治屋友輝】
昨夏全日本学童で指揮を執る千代松剛史監督【写真:加治屋友輝】

子どもたちの良い思い出づくりをサポートしたい

 練習の充実ぶりやチームの強さに引かれて、県境を越えて和歌山からやってくる子もいる。5・6年生が一緒に汗を流し、遠征などで行動を共にすることで、6年生の姿を見た5年生たちは自然と「勝つためには何をすればいいのか」が理解できる。そうした好循環が、このチームにはしっかり根付いているようだ。

 全国で勝ちたい思いは、当然ある。「でも、もう1つ目的があるんですよ」と千代松監督。

「他の都道府県の知らない土地に行って友達同士で泊まる。そういう楽しい思い出って、みんなあるじゃないですか。それができる機会を、子どもたち自身で努力して、つかみ取る。いい思い出作りのサポートをしてあげたいと思っているんです」

 今夏の全日本学童は、前年優勝枠での出場が決定している。連覇の花を添えて、最高の思い出づくりができるよう、チーム一丸で準備を進めている。

(高橋幸司 / Koji Takahashi)

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