保護者への負担大「やめてほしい」 野球人口にも影響…47年間貫く“当番制禁止”
中本牧リトルシニアは当番制なし…保護者の練習参加は自由
中学生のクラブチームは、学童野球と高校野球の“橋渡し”と位置付けている。全国大会の常連で、今春は日本一を成し遂げた横浜市の中学硬式野球チーム・中本牧(なかほんもく)リトルシニアは、47年前の創設時から当番制を“禁止”にしている。保護者の負担が大きくなり、家庭の事情で野球を続ける選手が減ることを防ぐ目的がある。
中本牧リトルシニアは今春の日本リトルシニア全国選抜野球大会で頂点に立った。これまでプロ野球選手を多数輩出し、中学硬式野球チームの名門として知られている。
チームは土日を中心に活動している。午前8時半頃から練習を開始する専用グラウンドには、保護者が集まっている。ただ、監督やコーチに交じって練習をサポートするわけではない。グラウンドに来るのは自由。実際に、練習が始まって1、2時間ほどで帰宅する保護者や、練習の途中で顔を出す保護者もいる。チームには父母会長と婦人部長がいるが、村上林吉監督は、47年前にチームを立ち上げた時から当番制を設けていないという。
「当番制にすると保護者の負担が大きくなります。特に春休みや夏休みは大変です。最近は共働きが一般的で、土日に仕事の保護者も少なくありません。当番が負担で子どもに野球をやらせたくないと考える保護者もいます。当番制はやめてほしいと保護者に伝えています」
また、村上監督は保護者と一定の距離を取るようにしている。監督と保護者が近すぎると、保護者との関係性が選手起用に影響したり、影響していると他の親子に誤解されたりする可能性があるためだ。
試合の応援は割り勘…進路相談は全ての公式戦を終えてから
チームで一般的な配車当番もない。遠征や大会で移動する際、選手はグラウンドに集合してからチームバスに乗る。応援したい保護者は複数人で自家用車に乗り、移動にかかったガソリン代や高速料金は割り勘としている。
バスはチームが購入し、その費用を代々、部費に上乗せしている。村上監督は「チームをつくってから今まで、大きな問題は起きていません。好きでグラウンドに来て手伝ってくれるのはありがたいですが、保護者がいなくてもチームを運営できる仕組みをつくることが大事だと思っています」と語る。
村上監督が唯一、保護者とじっくり話をするのは高校の進路相談。大半の選手が高校でも野球を続けるため、プレースタイルや指導者との相性、さらには学力や家庭の事情なども考慮して、選手が最も輝ける可能性の高い高校を勧める。そして、進路相談は全ての公式戦を終える中学3年生の秋と決めている。選手が進路に気を取られたり、指導者が余計な感情を抱いたりせず、中本牧リトルシニアとして最高の結果を出すことに集中する意図がある。
村上監督が考える中学野球チームの役割は「橋渡し」。園児や小学生で野球を始めた選手の可能性を引き出して勝利の喜びを経験させ、高校以降でも野球を継続する選択肢をつくる。
「選手がチームを辞めるのは仕方ない部分はあります。ただ、少年野球の指導者の方々が育ててくれた選手に、野球を続けてほしい気持ちが強いです。高校で活躍できる選手を育てる意識も持っています」
指導者の数が足りない、バスを買う余裕がないなど、チーム事情はどこも同じではない。ただ、保護者の力に頼らない運営を目指すチームにとって、中本牧リトルシニアに学ぶ点は多い。
(間淳 / Jun Aida)
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