安くない費用も…高3球児リーグ戦は「代えがたい価値」　最後の夏に味わった“自由”

甲子園出場を逃した高3選手対象「リーガサマーキャンプ」で得た“人生1度の体験”

　甲子園出場を逃した高校3年生を対象に初めて開催された、個人参加型のリーグ戦「リーガサマーキャンプ2024 in 北海道」の決勝が17日、エスコンフィールド北海道で行われた。参加した52選手全員が木製バットを使用し、4チームに分かれて今月9日から熱戦を繰り広げてきたこのキャンプ。4チームの1つ、ESTRELLAS（エストレージャス）の4番を務めた若井勇輝外野手（神奈川・桐蔭学園）が左翼に3ランを放ち、優勝に貢献した。

　有言実行の本塁打だ。大会3日目の11日、栗山町民球場で第1号を放った際には「（決勝が行われる）エスコンでも打つ」と宣言していた。「ど真ん中の変化球でした。超うれしいし、超気持ちいい！」。桐蔭学園で「3番・中堅」と主軸を担った右打者は満面の笑みを浮かべた。

　サマーキャンプ参加は、父親から勧められた。「木製バットに慣れることができるし、高校野球と違って自由なところも魅力」とすぐに心が動いた。神奈川大会準々決勝で敗れた当日は何もする気が起きなかったが、翌日にはこのキャンプに向けた準備を開始。「（トーナメントの）高校野球と違ってリーグ戦なので、プレッシャーなく実力を出せるはず。どれくらい力を出せるのか楽しみ」と新たなモチベーションになった。

　52人が4チームに分かれて、計15試合を行った中で、柵越え本塁打を放ったのは若井だけ。「途中、不振もあったけれど、ホームランを2本、エスコンでも打てた。力を出し切れた」と、大学進学後にプロ入りを目指す強打者は充実感をにじませた。

　今回の11泊12日のキャンプ参加費は、札幌までの移動費別で26万9500円と決して安くはない。若井は支援してくれた両親に感謝しつつ、「それ以上の価値はあると思います。ここ（エスコンフィールド）でできるのは人生で1回あるか、ないか、なので」と語り、今後の恩返しを誓った。

高校での公式戦は1度きりでも…リーグ戦ならば「出場機会をたくさん得られる」

　若井をはじめ、リーグ戦を通じて多くの経験を積んだ選手たちが口々に「参加して良かった」と話した今キャンプ。実際のところ、参加費を援助した親の視点から見ると、どう映ったのだろうか。

　プロ注目の最速149キロ右腕、石田充冴投手（北星学園大付）の父・威仁さんは「選手ファーストで伸び伸びやらせてもらっている。こんな経験をさせてもらえるのは、金額には代えられない価値がある」と話す。夏の札幌支部予選初戦2日前に左足首をねん挫して、意気消沈する息子にこのキャンプを勧めた。自身、米マイナーリーグや独立リーグでプレーした経験があり「野球はこっち（リーグ戦）の方がいい」と連日球場を訪れ、温かく見守った。

　二宮拓道外野手（甲南）の両親はこの日、兵庫から応援に駆けつけた。野球部ではレギュラーを奪うことができず、公式戦で打席に立ったのは1度だけ。父・智さんは「安くはない金額ですよね。でも、今回は1チーム13人だったので出場機会をたくさん得ることができました」と、エスコンフィールドの打席に立つ息子の勇姿を動画に収めていた。母・由紀子さんも「北海道に10日間も滞在することは、この先もうないでしょう。楽しんでもらえたら」と微笑んだ。

　北海道の公立校、静内の清水凪外野手の母・園美さんは「2週間近い日数があるので1泊1万としても20万近くかかるでしょう。それでエスコンも経験できて、高いレベルの子とリーグ戦ができるなら、安いものではないですけど、価値あるものだと思います」と言う。

　参加を勧めたのは園美さんだった。今夏室蘭支部予選初戦で苫小牧中央にコールド負けした清水は、「私立にボコボコにされて悔いが残ったし、知らない人と野球をやって、いろんな経験をしたかった」と新たな環境に飛び込んだ。

　連日観戦した園美さんは「あまり社交的な方じゃなかったけれど、生き生きとプレーしていました。親は機会とお金しか出せない。どう生かすかは本人次第。この先、この経験を価値あるものにしてほしいですね」と目を細めた。

（石川加奈子 / Kanako Ishikawa）