“肘を前に出せ”で「大量の故障者出た」 元プロが実験台…“関節を消す”投げ方指導

館林慶友ポニーでコーチを務める荻野忠寛氏【写真:伊藤賢汰】
館林慶友ポニーでコーチを務める荻野忠寛氏【写真:伊藤賢汰】

社会人や育成世代を指導…元ロッテ・荻野忠寛氏は故障回避へ「肘は伸ばしたまま投げる」

 打者なら「上から叩いて打て」。野手なら「打球の正面に入って捕球しろ」。幼い頃から野球をしてきた人であれば、一度は言われたことがあるだろう。ただ、その教えは常識ではなくなり、今では縦振りや逆シングル捕球を行う選手が増えている。投手であれば「肘を前に出して投げろ」も、そうした教えの1つ。かつてロッテで活躍し、中学硬式野球チーム「館林慶友ポニー」(群馬・館林市)で育成年代の指導にあたる荻野忠寛氏は「投手はその教えで大量の故障者が出たと思っています」と語気を強める。

「野球は特に肩肘を痛めるリスクが高いので、単純に言えば、そこの関節を“消して”やればいいと思っています。肘を前に出すのではなく、ゼロポジション(肩における負担が最も少ない角度)の位置から、肘を伸ばしたまま投げれば、関節を使うことはないので、痛めることはありません。この要素を、投げる中にどれだけ取り入れて重要になります」

 荻野氏自身も、アマチュア時代から「肘を前に出せ」と口酸っぱく言われ続けて育ってきた。桜美林高から神奈川大、日立製作所で活躍し、プロではルーキーイヤーから3年連続で50試合登板を果たすも、登板過多による負担は想像以上だった。肩肘に加え、ヘルニア、膝と計5度の手術を経験。8年間の現役生活の大半をリハビリで過ごした。

「右肩を手術してからは体の使い方を勉強しました。(ロッテで同僚だった)小宮山(悟=早大監督)さんは全然違う体の使い方をしていて、44歳まで現役だったのですが、一度も手術していないんですよ。なぜだろうと考えて、自分の体で色々と実験しました」

館林慶友ポニーでの指導の様子【写真:伊藤賢汰】
館林慶友ポニーでの指導の様子【写真:伊藤賢汰】

各世代で取り入れているパイプスロードリル…クリケットの投げ方も参照に

 荻野さんは昨年から社会人野球・JFE東日本のコーチに就任。今年7月にはチームを3年ぶりの都市対抗出場に導くなど、指導の幅を広げている。各世代で取り入れているお勧めのドリルは「パイプスロー」だ。

 長めの棒を用意し、右利きであれば、右腕を肩の高さで横に伸ばし、右手親指を下向きに、棒を肘の下につけるようにして持つ。そしてヤジロベーのように両腕をT字に広げたポーズから、左足を支点にして、半回転して体の向きを入れ替える。棒があることで肘は伸びたままなので、関節を“消す”投げ方へと矯正できる。

「ポイントは、しっかりと肩と骨盤の位置を入れ替えること。腕は緩むことなく、回内させて、棒の先端がなるべく遠くを通るイメージです。関節の動きが“消えて”いるので、この動きを何回やっても肘を痛める人はいません。投げる時にこの要素を少しでも多く入れられたら、肘への負担は減っていきます」

 肘を曲げて投げてはいけないクリケットのボウラー(投手)の基本動作「ボウリング」の動画も、選手たちによく見せるという。野球より10グラムほど重いボールを、助走をつけてワンバウンドさせて投げ込む際の球速は、トップレベルで160キロを超えてくる。

「クリケットはプルダウン(助走をつけての全力投球)とはいえ、肘を伸ばしたまま160キロが出るんです。だから、肘を曲げても、思ったより出力できないんじゃないかというのが僕の考えです。肘を曲げることで痛めるリスクが高まる割には、得られるメリットは少ない。肘を伸ばして投げた方が、結果的には肘は守られると思っています」

 ロッテから古巣の日立製作所に復帰し、2016年限りで現役を退いてから8年。42歳の今では、ウオーミングアップをせずに投げても「肩肘が壊れるという感覚は一切ない」という。荻野氏は、自らを実験台として得た経験を、次世代へと伝えていく。

(内田勝治 / Katsuharu Uchida)

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