父母会禁止で「まとまった意見は聞かない」 チーム分裂→部員減から“V字回復”のワケ

2023年に全国出場…八戸ベースボールクラブが示す「八戸モデル」
少年野球に「父母会」は必要か――。2023年に“小学生の甲子園”「高円宮賜杯 全日本学童軟式野球大会マクドナルド・トーナメント」初出場を果たした青森・八戸市の少年野球チーム「八戸ベースボールクラブ」は、父母会の設置を禁止している。代表の山市幸大さんは「本当に強いチームは父母会を設けた方がいいと思う」と話すが、それでも禁止する意図とは。
八戸ベースボールクラブは2019年に「八戸ダイヤモンドキッズ」として発足した。当初は「勝利至上主義」を掲げ、強いチームを作るため県内の名だたる指導者を招聘した。すぐに結果が出た一方、指導者間で「指導論の食い違い」が起きるケースが多発。選手を連れてチームを去る指導者もおり、部員数は減少の一途をたどった。
そこで、2022年に指導陣を一新。現チーム名に名称変更し、再スタートを切った。その際、「勝利至上主義」の方針を、選手や保護者の意思を尊重する「勝利理想主義」に変更。指導者の考えをアップデートし、「八戸モデル」を確立して提供しようと動き出した。
その取り組みの1つが、父母会設置の禁止。お茶当番や審判、遠方への送迎は保護者に強制せず、指導者陣で調整する。3月下旬に行った遠征でも保護者の帯同は求めなかった。部員は70人以上まで増え、チームを4つに分けて年間約500試合戦うため、もちろん保護者の手も借りる。ただあくまでも有志で協力してもらうスタイルだ。

父母会なくても協力得るための「親の成長を裏で促す」言動
「父母会があると派閥が生まれ、いざこざが起きる。そうすると『まとまった意見』ができ、例えば10人の意見を聞いて反論したら、その10人はいなくなってしまう。父母会をなくすことで、『まとまった意見』を聞かない、ある意味で“チームの方針優先”の状況を作れるんです」
山市さんはそう狙いを明かす。とはいえ、保護者の意見を無視するわけではない。「まとまった意見」ではなく、一家庭、一個人ごとの意見には耳を傾け、チーム運営の参考にする。
また山市さんは「父母会はないですが、その分、親の成長を裏で促している側面はあります」とも口にする。例えば「ストライクジャッジはこうするとかっこいいですよ」と伝え、審判をする動機を与える。日頃から「試合を観に行って応援しましょう」と音頭を取り、毎日の活動内容はグループLINEで逐一報告する。そうやって「お父さん、お母さんを本気にさせるための言動をわざとらしく取る」ことで、自然な流れで協力する雰囲気を醸成している。
「(保護者と)ぶつかった時はとことん話し合いをします。面倒なこともありますが、子どもは頑張っているのでなんとかしたいんです」。選手と保護者がともに成長する環境を作り、本当の意味での「強いチーム」を目指す。
(川浪康太郎 / Kotaro Kawanami)
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