練習準備で表情曇る子「テンションだだ下がりで…」 旧態依然に切り込む“母目線”改革

和気あいあいと練習する浦和Lovers Jr.ナイン【写真:片倉尚文】
和気あいあいと練習する浦和Lovers Jr.ナイン【写真:片倉尚文】

埼玉の学童野球チーム「浦和Lovers Jr.」はリズムトレ導入やサングラス着用を推奨

 2024年に発足した埼玉県の学童軟式野球チーム「浦和Lovers Jr.(ラバーズジュニア)」で代表を務めるのは4児のママ。“母親目線”で保護者の業務負担ゼロなど革新的チーム運営を進めるほか、旧態依然の練習方法にもメスを入れる。監督を務める夫は「最終決定権は母親にあってもいいのでは」と新たな学童チーム像を描く。

「浦和Lovers Jr.」の練習冒頭、グラウンドには音楽が鳴り響く。リズムに合わせながら自ら体を動かし、選手を指導するのはチームの代表を務める玉井梨紗さんだ。リズムトレーニングを行う子どもたちは、遊び感覚で楽しそうに体を動かしていた。

 野球のウオーミングアップといえば、体操やダッシュなどが“定番”。だが、「浦和Lovers Jr.」では、スポーツリズムインストラクターの資格を有する玉井さんの指導のもと、スポーツリズムトレーニングを取り入れている。

 自身の子どもがかつて別のチームに所属していた時、楽しくなさそうにアップしている選手が目についたという。「アップの時の子どもたちの表情が曇っていました。テンションがだだ下がりで……何とかしたいと思っていました」と明かす。

 サングラスの着用も推奨する。強い紫外線を受けながらのプレーは、将来的に目の病気を患うリスクを高める。子どもが目を真っ赤にして練習から帰宅したことで、目の保護の意識が高まったという。野球ではなかなか普及していないが、「浦和Lovers Jr.」では選手のほとんどが着けている。「目の怪我予防にも効果があるのでぜひ着けてほしいですね」と訴える。

小1から小6までの計15人で活動する【写真:片倉尚文】
小1から小6までの計15人で活動する【写真:片倉尚文】

夫で監督の玉井遼平さん「最終決定権は母親にあってもいいのでは」

 こうした取り組みを支えるのが、夫で監督の遼平さんだ。遼平さん自身、子どもがかつて所属していたチームでコーチを務めていたが、やはり“違和感”を抱いていたという。「大人の影響というところが強かったです。子どもたちがやりたがっているのに大人が介入して押さえたり、試合前日に決めた先発メンバーが直前に代わったり……」と当時を振り返る。

「浦和Lovers Jr.」の方針は6つ。「野球を楽しむ」「罵声や高圧的な指導を一切禁止」「練習は週1回の4時間以内」「子供たちの自主性を大切に」「脱・勝利至上主義」「父母会なし(設立不可) 保護者の業務負担はゼロ」を掲げ、実践している。今年3月にスタートした学童野球の新リーグ戦組織「INFINITY BASEBALL LEAGUE U-12(インフィニティ・ベースボール・リーグU-12)」(IBL)に所属しているが、試合で「(勝利を)重視するつもりはありません」と語る。

 部員は小1から小6までの計15人。スタメンは選手が話し合って決める。「何ができて何ができなかったか、どんな練習をすべきかなど提案するのが私の役割だと思っています」。チームが立ち上がって1年が過ぎ、こういった練習がしたいなどと選手からの提案が増えたことに成長を感じ取っている。

“ママ目線”で運営されるチームを理想形とも感じている。「母親の意見はとても大事。最終決定権は母親にあってもいいのではないかと思います」と学童野球のあり方を訴え、女性がチームの中枢にいることで「母親に安心感を与えられると思っています」とうなずいた。

 関心も高まっている。部員数はひとまず25人で抑える予定だが、5月24日に行われた埼玉県立大軟式野球部による野球教室&体験会には、体験生6人が参加した。指導者が足りない状況で、コーチ及びサポートスタッフを募集している。新たな風を吹かせている学童チームの今後が楽しみだ。

(片倉尚文 / Naofumi Katakura)

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