甲子園常連校に増える軟式出身者 悲願の全国初V…中高“6か年”で進める育成改革

全日本少年軟式野球大会で優勝した作新学院中ナイン【写真:小池義弘】
全日本少年軟式野球大会で優勝した作新学院中ナイン【写真:小池義弘】

中学軟式の全国大会「全日本少年軟式野球大会」で作新学院中が悲願の初優勝

 野球の上達には、中学生年代での“人間的成長”が欠かせない。中学軟式野球の日本一を決める“中学生の甲子園”「第42回全日本少年軟式野球大会ENEOSトーナメント」は15日、横浜スタジアムで決勝戦が行われ、作新学院中(栃木)が星稜中(石川)を2-0で破り初優勝をつかんだ。星稜中の最速148キロ右腕・服部成投手相手に緊迫した一戦を繰り広げながらも、7回に4番・西原壮雄捕手の左越え2ランで勝ち越し。そのままリードを守り抜き、悲願を手にした。

 作新学院中は同大会に昨年、一昨年も出場。県内でも結果を残す実力校だ。しかし、作新学院高校の硬式野球部では、軟式の中等部出身者が主力に定着することは稀だった。2013年から2023年までの10年間で、夏の甲子園大会地方大会メンバーに中等部出身の選手が入るのは、毎年1人いるかいないかだった。しかし、2024年には4人、2025年には5人と、着実に増加の一途を辿っている。この背景に何があったのか。

 転機となったのは、増渕洋介氏の監督就任だった。作新学院高校硬式野球部でプレーし、卒業後は国際武道大を経て、同校コーチとして復帰。2016年から中等部軟式野球部の監督を務めている。「高校での取り組みを中学でも行おうと。(中学、高校の)6年間で選手を見ていこうという方針ができてきました」と背景を語る。増渕監督が就任した2016年に、作新学院高は夏の甲子園で全国制覇。2021年まで夏は連続出場を続けるなど、まさに黄金期。中高一貫校の特性を活かし、まず中学生年代では、野球上達の土台となる学力や生活面での指導を重視し、さらなる戦力の底上げを狙った。

 対戦相手の星稜中も、中高一貫の私立高校。過去には内山壮真捕手(ヤクルト)などがプレーし、星稜高へ進んでいる。同大会は他にも明徳義塾中、東海大静岡翔洋中など、強豪の中高一貫校が出場した。「五田(祐也・星稜中監督)さんの話を聞きながら、高校とどんな連携をしているのか、中学生の時期にやっておくべきことなどを聞いて吸収しています。高校の指導者とも常に連絡を取り合っているので、選手や指導のことも密に共有しています」と増渕監督は説明する。

7回に勝ち越し2ランを放った作新学院中・西原壮雄【写真:小池義弘】
7回に勝ち越し2ランを放った作新学院中・西原壮雄【写真:小池義弘】

勉強も野球も人間性も…理想的な育成サイクル

 一方で、高校には上がらず県内の県立校に進学する子もいるという。県内トップの偏差値を誇る宇都宮や、昨年夏の甲子園に出場した石橋など、勉強と部活動をハイレベルで両立できるような進学校に複数人が進むそうだ。学業から、普段の生活もきちんと指導できる作新学院中だからこその成果だ。日本一を目指しながら野球も上達し、学力と人間性も育てられる。選手にとっても親にとってもこれほどない環境だろう。

 高校に上がってメンバー入りした選手の共通点を聞くと、増渕監督は「精神的なタフさや人間的なたくましさがあって、ちゃんとしてる子が活躍していますね。高校ではもちろんボールも(硬式に)変わって求められるレベルは高くなりますが、しっかりした子なら、それに戸惑わずチャレンジできるんだと思います。高校でギャップを感じたという声はほとんど聞きません。そういう選手を育てて送り出すのが僕らの仕事かなと思っています」。“6か年計画”が実りを迎えるのは、そう遠くない未来だろう。

(磯田健太郎/Kentaro Isoda)

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