“昭和式運営”に限界「チームを畳む」 野球離れ、親の負担…強豪監督の苦悩「時代に合わない」

北摂リトルシニアの後藤能己監督(左端)【写真:磯田健太郎】
北摂リトルシニアの後藤能己監督(左端)【写真:磯田健太郎】

大阪の中学硬式野球チーム「北摂リトルシニア」は2026年で活動を終了する

 強豪の歴史に終止符が打たれようとしている。8月14日に東京・大田スタジアムで行われた「第19回全日本中学野球選手権大会 ジャイアンツカップ」準々決勝で、北摂リトルシニア(大阪)は強豪の世田谷西リトルシニア(東京)に4-7で逆転負けした。試合後に後藤能己監督は大きな決断を口にした。「来年でチームを畳むんです。もう時代に合わないんですよね」。全国大会でも数々の実績を積み上げた歴史あるクラブに、一体何があったのか。

 現2年生の世代を最後に、北摂リトルシニアは活動を終了する。指揮官の口から聞かされたのはその事実だけではない。令和の時代にチーム運営する上で、苦悩を抱えていた。「もう時代に合わないんですよね。僕はどちらかというと昭和の野球をするので。ただ、厳しくやると人も入ってこないし、部費が入ってこなくなる」と本音を漏らす。

 そして、「自分の野球を曲げるわけにもいかない。ある程度の厳しさも必要だと思いますし。世の中的には保護者の負担を減らすべきだという風潮もあります。でも、保護者の負担や協力がなければクラブチームは回らないんですよ。そんな中で『もう続けるのはしんどいな、どこかで畳まないとアカン』と思っていたんです」と続けた。

 北摂リトルシニアは2008年に創立された。今年はシニアの全国選抜大会と日本選手権に出場。2年連続4度目の出場を果たしたジャイアンツカップでも、優勝を飾った世田谷西を追い詰めるなど輝かしい実績を残してきた。しかし、少子化による野球人口の減少、価値観の変容など、活動を続けるうちに取り巻く状況は大きく変化。熱意だけでは回らなくなった現実に、後藤監督は疲れ果てていた。

“同業者”も決断にもどかしさを覗かせる。普段から指導について意見を交わす世田谷西の吉田監督はこう漏らす。「『辞めんなよ』と言っていたんですけど……今の時代はいろんなことを考えながらやらないといけないのは間違いありません。やりたい野球が今の時代に合わないとか、それが問題になってしまうとか、指導者が一番守られていないと思うこともあります」。

 さらに「ただ、後藤くんみたいなチームの特徴を出していける指導者ってあまり多くないですし、試合をやっていて楽しい監督っていうのはあまりいないので残念です」と思いを寄せた。

優勝した世田谷西リトルシニアと接戦を演じた選手たち【写真:磯田健太郎】
優勝した世田谷西リトルシニアと接戦を演じた選手たち【写真:磯田健太郎】

主将が表した感謝「監督を信じてきてよかったです」

 厳しい指導ながらも結果を残してきた“後藤野球”を、選手はどう感じていたのか。主将の藤本陽向投手は振り返る。「監督のやり方に『これで合ってるのかな』という不安もありました。それでも、本気で野球ができる環境を選びたくてここにきました。(昨年夏に)急にキャプテンに指名された時は、僕もおどおどしていたんですが、今は前に出ていける性格になりました。2年半お世話になって監督を信じてきて良かったです。感謝しかありません」。

 藤本はこの試合の5回途中から登板し、世田谷西の6番・浅田宋次朗内野手に逆転打を許した。試合後は涙を流すも、戦い抜いた顔は晴れやかだった。藤本だけではない。北摂の選手たちは試合後に気持ちを切り替え、スタジアムの外で世田谷西の選手たちの元へ赴き、勝利を称えた。

「野球を通じての健全な青少年育成」が北摂の指導方針。「学業もおろそかにするなと、ずっと伝統として指導しています」と後藤監督。技術だけではなく人間性も2年半で身についていたのは間違いない。

 そして、「こんな華やかな時(全国大会)って一瞬なので。そこにたどり着くのは体力的にも精神的にもなかなかしんどいですから」とつぶやき、こう続けた。「中学で終わりではないので、今日のような痺れる試合に勝っていかないと甲子園に行けないんだと。堂々とプレーするにはやることをやってないと震え上がって何にもできないというのを、身をもって経験できたと思います」。来年は“最後の教え子”たちと、中学硬式野球界に何を残して去っていくのだろうか。

(磯田健太郎/Kentaro Isoda)

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