球界に根強いトップダウンに疑問「止めてほしい」 イエスマン育成は「本当の指導ではない」

引退後の人生も豊かにする監督・選手の関係性とは(写真はイメージ)
引退後の人生も豊かにする監督・選手の関係性とは(写真はイメージ)

JR北海道元監督・狐塚賢浩氏が重視…脱トップダウンと「人間的な付き合い」

 かつて、日本の野球界では一般的だった“トップダウン”型の指導。絶対的な意思決定権を持つ監督とそれに従う選手の間には明確で強固な上下関係があり、今もそうした“因習”は根強く残っている。2010年から2018年までJR北海道野球部(2017年からはJR北海道硬式野球クラブ)の監督を務めた狐塚賢浩さんは、いち早くこの“常識”を疑った。「監督だからといって選手と一線引く必要はまったくない。人間的な付き合いをしたかった」。そう考えて選手と何でも言い合える親密な関係を築き、チームを7度、都市対抗野球大会に導いた。

「人の意見を聞かないのは損。自分だけの意見だと間違っていることもあるし、間違っていることはむしろ止めてほしい。『こういう意見もある』『こうやったらどうだ』『それも良いね』…といったやり取りが必要だと思ったんです」

 選手とは日頃から積極的にコミュニケーションを取り、一方通行の関係にならないよう心がけた。中には監督と選手の対立構造が生まれてしまうチームもある。そんな関係はもってのほかだ。狐塚さんは「せっかく好きな野球をやっているのに、“監督と戦う”という足かせをつけたくない。選手は(野手であれば)相手の球を打つことを一番に考えないといけないので」と指摘する。

「監督だからといって、とてつもない人格者というわけではない。選手の運命を授かってここにいるからには、最善を尽くすというだけ」。狐塚さんは「元々の性格だから(接し方は)特に意識していない」と笑いつつ、そう本音を口にした。

JR北海道で監督を務めた狐塚賢浩氏【写真:本人提供】
JR北海道で監督を務めた狐塚賢浩氏【写真:本人提供】

試合中に選手が直談判「打てそうもないので代えてください」

 選手との良好な関係性が垣間見えるエピソードがある。

 狐塚さんは監督時代のある日、選手たちに「みんな余裕な顔をして打席に立っているけど、内心打てないと思っている時あるよな。打てないと思ったら俺に言ってこいよ」と伝えた。すると後日、公式戦の試合中に当時の中心選手だった美馬健太さん(現・中央大硬式野球部コーチ)が「打てそうもないので代えてください。あいつ(他の選手)の方が打てると思います」と直談判してきた。

「よく言った。お前のその気持ちは大切にするわ」。狐塚さんはそう言って代打を送った。その後、都市対抗本選でも複数の選手が「打てない」と自己申告してきた。

「虚勢を張って余裕をこいて打席に立つよりも、『あいつを出してください』と言う方がよっぽどチームのため。弱気だとかは一切思わず、チームを愛していると判断します。とにかく、対人間として対等でいたいんです」。狐塚さん自身がチームや選手を愛するがゆえにできたルールだ。

「指導者が言ったことに『はい』と答える人間を作るのが本当の指導かというと、そうではない」と狐塚さん。自分で考えて発言し、行動する能力は野球を引退した後の人生でも役立つ。年代やカテゴリーを問わず、技術向上だけでなく人間形成を目指す上での接し方を、指導者は日々アップデートする必要がある。

(川浪康太郎 / Kotaro Kawanami)

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