中学硬式と軟式の“差”「かなり違う」 2年生で進路確定…広がる選択肢「目に留まりやすい」

世田谷西リトルシニアナイン【写真:加治屋友輝】
世田谷西リトルシニアナイン【写真:加治屋友輝】

世田谷西リトルシニアの吉田昌弘監督「硬式の方が正しい実力が出る」

 硬式と軟式では、プレー以外に大きな差が存在する――。中学硬式野球5リーグの全国王者による「3rdエイジェックカップ 中学硬式野球グランドチャンピオンシリーズ」が8月27〜29日に開催された。リトルシニア代表の世田谷西リトルシニア(東京)は28日の1回戦で、ヤングリーグ代表のオール岡山ヤング(岡山)に0-3で敗戦。シニア選抜大会、日本選手権、ジャイアンツカップに続く“全国4冠”はならなかった。そんな中、吉田昌弘監督が中学野球の硬式と軟式の違いに言及。所属する選手の将来についても語った。

 大会に参加した5チームの中で、8月だけで唯一3度目の全国舞台。大会前日の27日に実施されたデータ計測では担当者が「群を抜いていた」と他チームを圧倒する数字を叩き出したものの、試合では過密日程の疲れを隠せなかった。吉田監督は「残念ですけどしょうがない。勝ち負けは、その時のいろんな状況がありますから」とサバサバした表情。「みんな個人のレベルも上がってチーム力も上がって、1年間通して凄く頑張った」と選手の奮闘を称えた。

 3年生にとっては最後の公式戦。「3年生52人は、1人1人が最後までやるべきことをやり切ったと思います。負けるとこういう(悔しい)気持ちになるというものも大事にしながら、これからの人生に生かしてもらいたい」。これから先も長く続く教え子たちの人生にエールを送った。

 今大会はボーイズ、ポニー、フレッシュを含めた中学硬式5リーグによる決戦。どのリーグがいいのか、部活動の軟式野球もあり、何を選択するか悩む小学生もいるだろう。特に硬式と軟式ではボールに大きな違いがある。コルクやゴムの芯に糸を巻き牛革で包まれた硬式球は、ゴム素材で作られ空洞がある軟式球に比べて硬くて重い。大きさも違う。

 吉田監督は「軟式はボールが変わってきてますけど、やっぱり弾む」と指摘。「軟式が悪いわけではないですけど、硬式の方が正しい実力が出るんじゃないでしょうか。自分の力を正しく理解したり表現したりできると思います」と説明した。

 プレー以外にも大きな違いがある。「軟式野球で全国大会に行くのは、システム的になかなか難しい」という。全国大会数が少ない上に、基本的に代表チームは各都道府県から1校に限られる。中学時代は静岡県浜松市で軟式野球部に所属した吉田監督も「チームは強かったんですけど、浜松の外に出て公式戦や練習試合をやった機会は2、3回しかなかった」と振り返る。

試合中ナインに指示をする吉田監督【写真:磯田健太郎】
試合中ナインに指示をする吉田監督【写真:磯田健太郎】

プロにも複数輩出する強豪、米国でプレーするOBも

 一方、硬式は各リーグで全国大会が複数ある。さらに全リーグで争うジャイアンツカップや今大会があり、世田谷西は今年だけで4度の全国大会を経験。そのうち3度日本一を成し遂げた指揮官は「例えばシニアは、春の全国大会は関東だけで17チームが出られます。全国大会に出られるチーム数が多い。そういう意味で、目立ちやすい。高校のスカウトの目に留まりやすい。いろんな大会に出て選手のモチベーションも上がる」と解説した。

「選手や保護者、スタッフは大変だと思いますけど、テリトリーが広いので、いろんな地域に行って試合をやっている。他県で試合をするケースが軟式野球より圧倒的に多い。いい思い出ができたり、貴重な経験もできるという部分で、申し訳ないですけど軟式とはかなり違うのかなと感じます」

 世田谷西は大会ごとにベンチ入りメンバーが入れ替わる。できるだけ多くの選手にチャンスを与えるのがチーム方針。大舞台で結果を残せば、進学先の選択肢が広がる。「選手にとっても保護者にとっても、進路が一番大事だと思います」。その進路は2年生の間に全員決まるという。「3月以降は土日に試合があるし、平日に学校を休むわけにはいかない。2年生の12月から2月の頭にかけて、高校の寮とか練習の見学に行きます」。

 春の時点でほとんどの3年生の進学先が決まっているのである。「その子の野球と勉強の実力で3年間を過ごせる高校がある。さらに次のステージを考えてくれる。セタニシ(世田谷西)出身者は東京六大学だと50〜60人、東都大学リーグも多数います。野球を続けない子は、しっかり大学生活を送って就職する。アルバイトも経験して、新たなステージに進む子もいます」。

 2023年ドラフト3位でソフトバンクに入団した廣瀬隆太内野手ら、プロにも複数の選手を輩出。米国でプレーするOBも多いという。「今年もハワイ大学に編入しています。セタニシ出身者のうち10人以上が、アメリカでプレーしている。アメリカに行く選択肢があるなら、高校の選び方も変わってくるし、そっちの知識も持っていた方がいい」。グラウンド外でも奔走する日々が続く。

「将来から逆算して野球も、野球以外も、その子の人生なので、しっかり考えたい。セタニシでやっていることが、いろんな経験になってくれるといいなあと思いますし、この先の人生でもいろんな経験をしてもらいたい」。濃密な中学時代の3年間。その先にはもっと長い時間がある。その中で貴重な経験を重ねていくことを、吉田監督は願っている。

(尾辻剛 / Go Otsuji)

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