専用球場なし、時間限られても“全国3冠” 中学強豪が徹底して「打撃練習」にこだわる理由

ジャイアンツカップを含む全国3冠を達成した世田谷西リトルシニア【写真:小林靖】
ジャイアンツカップを含む全国3冠を達成した世田谷西リトルシニア【写真:小林靖】

専用球場持たない世田谷西シニア…練習は各地を転々

 専用グラウンドがなくてもチームを強化できる。8月の「第18回全日本中学野球選手権大会 ジャイアンツカップ」を制するなど、“全国3冠”を達成した中学硬式の強豪「世田谷西リトルシニア」は専用グラウンドがなく、神宮室内練習場を借りるなど各地を転々としながら練習を続けている。東京23区内は土地が限られ、広大なスペースを必要とするグラウンドの確保が難しい。Full-Countでは小学生・中学生世代で全国制覇を成し遂げた指導者を取材。専用グラウンドがないハンデについて、元西武外野手の蓬莱昭彦総監督は「東京のチームはグラウンドのことを言っても仕方がない」と語る。

 チームが平日に練習を行うのは火曜日と木曜日。神宮の室内練習場や多摩川のグラウンドを借りて2時間ほど汗を流す。神宮室内はスペースの問題もあり、限られた時間の大半を打撃練習に費やす。根底にあるのは「守備が下手でも打撃が良ければ代打で出られる。代打で結果を出していればレギュラーにもなれる」という考え。「打撃練習をずっとやっています。室内でできるのは打撃以外は軽いノックとブルペン投球くらいですから」。4か所に分かれてのフリー打撃と、ネットに向かってのティー打撃を繰り返す。

「練習時間があるからといって、うまくなるわけじゃない。普段そんなにやれない分、野球をやりたいと飢えます。飽きることがありません。2~3時間、集中してやれば相応の形になっていきます」。練習日以外の指示は特に出さず、自主性に任せている。「普段やっているかどうかは、練習日に動きを見れば分かりますから」。

 土日や祝祭日で公式戦がない日は練習試合、実戦形式の練習を徹底して行う。各学年50人以上いる部員を15~20人のグループに分けて、4、5か所の試合会場に向かうこともあるという。全国屈指の強豪である世田谷西には練習試合の申し込みも多く、対戦相手に困ることはない状況だ。

 試合は全て動画を撮影。動画投稿サイト「YouTube」で全選手が確認できるようにしている。3学年合わせて部員160人超のマンモスチームだが、全員が試合に出られて確認し合える環境を維持してモチベーションを保っている。「練習試合を重ねて、実戦の対応力を養っていますね」と語る蓬莱氏も、全試合をチェックしているという。

打撃指導をする蓬莱昭彦総監督(左)【写真:尾辻剛】
打撃指導をする蓬莱昭彦総監督(左)【写真:尾辻剛】

10メートルの至近距離からの打撃練習で攻撃力アップ

 試合に行かないグループはシート打撃など実戦形式の練習を行う。「1か所で打ちます。マシンではなく、選手にかなり前から投げさせて打撃練習をします」。野手が投げる場合はマウンドから約8メートル前に出て、約10メートルの至近距離からの投球を打ち返して攻撃力アップを図る。

「打撃がいいと、実戦練習では速い打球を捕ることになります。自然と守備も鍛えられます」。打撃力向上が呼ぶのは守備力だけではない。紅白戦では強打を封じようとして投手力も上がる。打撃を鍛えることでチームの総合力が上がる。その結果が今年の“全国3冠”に表れている。

 専用グラウンドがなくても、チーム強化の方法はいくらでもある。吉田昌弘監督も「グラウンドを持っていたら、管理したり時間やお金もかかってしまう。付随する負担も出てくるので一長一短かなと思います」と話す。練習時間が限られる状況でも「1人でやれることは家でやって、チームでしかできないことをなるべくチームの練習でやる。後は練習試合をうまくやりながら良くなっていければいい」と前を向く。

 恵まれた練習環境ではなくても、工夫と努力で道は開ける。世田谷西は練習時間や場所が限られる中で、実戦を重ね、自主性を育て、選手一人ひとりが成長する状況を作ってきた。グラウンドの“ハンデ”を力に変えてきた姿勢が、日本一のチームを築き上げた。蓬莱総監督は10月末開催の「日本一の指導者サミット」に出演予定。今後の育成現場にとっても大きなヒントになるのではないだろうか。

中学硬式で“全国3冠”…世田谷西シニアの指導・練習法を紹介!

 Full-Count、First-Pitchと野球育成技術向上プログラム「TURNING POINT」では、10月27日から5夜連続でオンラインイベント「日本一の指導者サミット2025」を開催します。小学生・中学生の各野球カテゴリーで全国優勝経験がある全11チームの少年野球監督を招き、日本一に至るまでの指導方針や独自の練習方法について紹介していきます。参加費は無料。登場予定チームなどの詳細は以下のページまで。

【日本一の指導者サミット2025・詳細】

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(尾辻剛 / Go Otsuji)

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 球速を上げたい、打球を遠くに飛ばしたい……。「Full-Count」のきょうだいサイト「First-Pitch」では、野球少年・少女や指導者・保護者の皆さんが知りたい指導方法や、育成現場の“今”を伝えています。野球の楽しさを覚える入り口として、疑問解決への糸口として、役立つ情報を日々発信します。

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