炎上中学生に「マウンドでやり返せは酷」 大逆転負けが原点…全国2冠、“唯一無二の”継投作戦

3rdエイジェックカップ決勝で先発した東海中央ボーイズ・河村真汰【写真:加治屋友輝】
3rdエイジェックカップ決勝で先発した東海中央ボーイズ・河村真汰【写真:加治屋友輝】

今夏“全国2冠”を達成、「東海中央ボーイズ」竹脇賢二監督の取り組み

 日本一をつかんだ根底には「唯一無二」を貫く思考があった。今年8月に行われた、中学硬式野球5リーグの夏の全国王者が“真の日本一”の座を争った「3rdエイジェックカップ」を制した東海中央ボーイズ(愛知)。初出場で優勝を遂げた原動力はどこにあったのか。Full-Countでは小学生・中学生世代で全国制覇を成し遂げた指導者を取材。創部13年目のチームを全国屈指の強豪に育て上げた竹脇賢二監督が、ここまでの取り組みを振り返った。

 2023年春のボーイズ全国大会で初の日本一を達成した東海中央は、今夏のボーイズ全国大会で2年ぶりの日本一。さらに3rdエイジェックカップでも優勝し、2年半の間に3度頂点に立った。強打が売りの一方、驚くべきは投手起用にもある。今夏のボーイズ全国大会決勝は6投手の継投で7-1。エイジェックカップは4投手の継投で1-0の接戦をものにした。

「東海中央の最大の特徴は、全国で戦える投手を数多く育てていることです。これは他のどのチームもマネできない。唯一無二のチームです」

 エイジェックカップ決勝では1死一、二塁のピンチで、カウント0-1となって投手交代したシーンもあった。竹脇監督が強く意識するのは試合の“流れ”。「流れを相手に渡さないことを常に考えます。相手に流れがいったなと感じたら、タイムをかけるなど色々なやり方がありますが、究極は投手を小刻みに代えること。そこで完全に流れが1度止まりますからね。そこで抑えれば、また流れがうちに来ます」。目に見えない“勢い”を引き寄せるのである。

 たとえ苦しい展開でも、たとえエースでも、どれだけ大事な試合でも長く引っ張ることは極力しない。「打たれて代えるのは分かりやすいけど、僕は打ち込まれる前に代えます。球数を気にしながら、投手の表情や球自体の変化、打者との兼ね合いを見て継投するのが一番いい。私は打者の弱点やそこからくる打球方向の予知能力、つまり洞察力に絶対の自信があります。選手たちにも、洞察力を磨くために常に周りをよく見ることや、その根底となる目配り・気配り・声掛けを意識させています」。継投にこだわるのには、心身ともに負担をかけたくないという思いがある。

 大会に出場すれば5日間で6試合など過密日程となる。夏場は猛暑対策も必要で、まだ成長期の中学生だけに無理は禁物。短いイニングで代えれば肉体的な負担は軽減される。回の途中での登板が多くなる救援投手には重圧もかかるが「自分で出した走者じゃないから『点は取られていい。打者を打ち取ることに集中してくれ』と伝えます」という。

 その後に失点した場合でも、先に降板した投手の心理を「火だるまにはなっていないからショックは少ない」と説明。打ち込まれて降板したケースの方が落ち込みが激しいことが多く「『切り替えろ』というのも無理な話。『マウンドでやり返せ』っていうのは、中学生には酷です」と続けた。

4人が同時に投球練習できる東海中央ボーイズのブルペン【写真:尾辻剛】
4人が同時に投球練習できる東海中央ボーイズのブルペン【写真:尾辻剛】

公言する目標「日本一」…選手、保護者と「共有して進みたい」

 もちろん、交代させるのは後ろに控えている投手の力量に自信があるからである。継投が決まれば勢いも増す。チームのモットーは「全員野球」。部員100人を超える中から選んだベンチ登録25人を、大会で全員起用したいと常々考えている。「代えなければそれで済むのも野球ですけど、中学野球はベンチに25人いる意味を考えないといけない。選手の特徴を把握し、どう最善を尽くすかが監督の仕事です」と言い切る。

 継投に失敗するリスクは覚悟の上。「その覚悟と責任と度量があるかどうかだけです」。“原点”は2017年。東海地区の決勝戦で愛知尾州ボーイズと激突した東海中央は、7-1と6点リードしながら最終回に7失点して大逆転負けを喫した。「タイムを取ったり、牽制を入れたり、配球を変えたりと手を尽くしたけど、どうにもならなかった」。その際に「流れを切るために、もっと投手の数を作らないといけない」という結論に至ったという。

 名古屋市内の練習場には、保護者に協力してもらって作ったブルペンがあり、4人同時に投球練習ができる。そこで競争を促しながら投手を育成。3学年合わせると投手の数は30人を超える。連戦でも毎試合4、5人の継投が可能なシステムを築き上げた。

「継投しながら流れを作る。選手の将来にとっても、野球界にとっても、実体験できたことは非常に良かったと思います」。その視線は、既に来年に向かっている。「夏の連覇を目指せるのはうちしかいない。エイジェックの連覇を狙えるのも東海中央だけ。そこも唯一無二です。『それを目指すのは当然だよね』という話は選手にしています」。

 常に目標を公言してきた過去がある。「昔は不言実行が美学という部分もあって、それも一理あると思いますが、僕は『日本一』という目標を公言して、明確にして選手や保護者と共有して進みたいと思っています。その方が合理的ですから。まさに『1人の100歩より100人の1歩』です」。公言することはプレッシャーにもなる面があるものの「公言して恥をかいたこともあるけど、みんなで上を目指したい」と前を向く。

 チームによって目標がベスト8、ベスト4以上などの話が出ると「ちょっと違和感がある」と指摘する。「仮にベスト8の力量だとしても、優勝を目指している選手が1人でもいる以上は目標は優勝であるべき。そして目指すべきものがあるなら、言葉に出して意識させます」。頂点をつかむために何が必要なのかも時間をかけて説明している。

「プレッシャーやストレスを乗り越えないと真の成長にはつながらない。もっともっと東海中央のレベルを上げていきたい」と語る竹脇監督は今月27日から開催の「日本一の指導者サミット」に出演予定。今夏の2冠では終わらない。究極の唯一無二を目指して突き進んでいく。

(尾辻剛 / Go Otsuji)

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