初球見逃しで「打率低下は絶対」 3球凡退も気にしない…中学王者が貫く“超攻撃野球”

強打で夏の全国大会を制した東海中央ボーイズ【写真:加治屋友輝】
強打で夏の全国大会を制した東海中央ボーイズ【写真:加治屋友輝】

今夏“全国2冠”の「東海中央ボーイズ」が貫く積極的な打撃

 まだパワーが足りない中学生には、体に見合った打撃スタイルが必要になる。今夏のボーイズ全国大会と「3rdエイジェックカップ」を制して“全国2冠”を達成した愛知の中学硬式野球チーム「東海中央ボーイズ」は、1番から9番までの全選手が、バットを指2本分以上短く持って打席に立つ。創部13年目で全国屈指の強豪に育て上げた竹脇賢二監督が狙いや効果、打撃指導で気を配っていることを明かした。

「数年前に比べて投手の球速が上がってきています。中学生の全国大会では135~140キロの投手が普通にいる。球種も多くなって、手元で球が動きます。中学生だと800~850グラム前後の金属の棒(バット)をいかに扱って打つかになる。操作しやすいことを考えると、分かりやすく指2、3本分、グリップエンドから空けてバットを持つんです」

 重要なのは、短く持つ理由を選手に納得させること。「短く持った時点でバットが内から出やすくなる。コンパクトに振るからスイングの速度も上がる。そうなると球を長く見られるようになる。バットの操作性も上がるのでミート率が上がりますし、短く持っても長打は出ることを理解させています」。今夏のボーイズ全国大会では1試合平均7.2点をあげて優勝。効果は如実に表れた。

 構えにも注意を払う。「今は軸足の爪先を外に開いて構える子が多い」と、開かないように助言する。「投げるのも打つのも地面から力を受けて、下半身から体幹を使ってインパクトやリリースにつなげます。軸足のつま先が外を向いていると力が逃げる状態になっているので、地面からの力が伝わらない。そうなると速い打球を打てないし、飛距離も出ません」。

 下半身では股関節の使い方も重要で、「力を発揮できる一番重要な部位が股関節です。スクワットをするような状態、いわゆる“パワーポジション”を覚えさせます」という。最も力を出せるパワーポジションは個々で差はあるものの「突っ張った状態にならないことが大事。突っ張った状態になると手の操作がしやすくなって手打ちになりやすい」と柔軟性が必要であると指摘した。

 下半身が決まると次は上半身。トップの位置は「球とバットの距離が取れる状態を作らないといけない」と力説する。「トップが浅いとスイングの加速がつかない。そうなると強い打球を打てないし、遠くに飛びません。球を長く見られないから見極めができないし、何ひとついいことがありません」。捕手寄りの肘(右打者なら右肘)が体の前をスムーズに通りながら、バットを内から出すのが中学生の理想的なスイングだという。

打撃ゲージで打ち込む東海中央ナイン【写真:尾辻剛】
打撃ゲージで打ち込む東海中央ナイン【写真:尾辻剛】

ファーストストライクをフルスイングさせる意味

 体の使い方を覚えると、いよいよ実戦に向かう。指示するのはファーストストライクからフルスイングすること。「見逃した途端に、どんどんヒットが出る確率が下がります。これは絶対です」。ファーストストライクなら安打の確率は3割5分、カウント0-2だと5分(=5パーセント)しかないという。「10回打って0.5本だと勝負にならないよねと説明しています」。

 9人がファーストストライクを狙って安打が3、4本重なれば得点が入る。仮に1イニング3球で終わっても気にしない。「次の回は慎重にいきたくなるだろうけど、その必要はない。やり続ければ点数が入ります。ビッグイニングも作れます」。カウント3-0でも打たせるケースは多々ある。「ノースリーは高い確率でヒット、長打が出る」。常に積極的な思考が、攻撃力をアップさせる。

 積極的な思考は走塁にも当てはまる。「三塁までいっても、そこで攻撃が終われば点数にならない。本塁にかえってくるのが大事。無理せず止まるのは簡単です。『迷ったら、いけ!』『暴走気味にいけ!』と言っています。全国レベルの投手を崩すには、足での揺さぶりも必要です」。ウオーミングアップから盗塁や“ゴロゴー”などの練習を取り入れ、試合では全員で相手投手の癖を探って情報を共有する。

 強く「いけ!」と指示できるのは、結果を分析して合理的に考えた末の結果である。黙々と打ち続ける打撃練習。中学生のスイング速度で最も安打が出やすい打球角度は「10~20度」というデータを基に、ネットに目標角度のゾーンが分かるようにロープを張ってそこに打ち込んでいく。

「選手を効率的に成長させることを常に考えています。本当は無駄なことをやるのも、何が無駄なのかが分かるので大事なんですけど、土日、祝日と練習時間が限られている。だから全て論理的、合理的に考えています」。昭和の厳しい雰囲気を漂わせながら、貫いているのは現代の中学生に合わせた合理的な野球。東海中央ボーイズが中学硬式野球の時代の一端を担っているのもわかるはずだ。

(尾辻剛 / Go Otsuji)

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