“規制だらけ”の学童野球に「矛盾してる」 監督は猛反発も…バント禁止を押し切った理由

通算408犠打の元ヤクルト・宮本慎也氏が明かす…冠大会でバント禁止のワケ
バント禁止の大会がある。「アルパインプレゼンツ 第10回宮本慎也杯 学童軟式野球大会」の3位決定戦と決勝戦が11月22日、東京都大田区の大田スタジアムで開催された。128チームが参加した同大会では、バントの構えをした時点でストライクとするなど独自のルールが設定されている。大会長で元ヤクルトの宮本慎也氏が、ルールを設定した理由を明かした。
「選手のみんなに思い切りバットを振ってほしい。とにかく試合を楽しんでもらいたい。勝敗よりもまず、振ることを覚えてほしいと思ったんです」
2013年に現役引退した当時、長男・恭佑さんが野球を始めた時期だったため学童野球を見る機会が増えていたという。発端は「この子らは楽しいのかなって感じたことがあった」こと。学童野球で「待て」「バント」のサインが多用されることに疑問が生じた。
「四球狙いとか『ゴロを打て』とか、見ていてこれはいかんなと感じました。練習で『しっかりバットを振れ』と指導しても、試合では『待て』となると、矛盾している。小学生の時から規制ばかりかかっていては、楽しくないと思います。それに、本当にいい選手しか伸びてこない」
2016年に第1回大会を開催。真っ先に挙げた条件がバント禁止だった。複数の監督が集まった会合では「大反対を受けました」と振り返る。「監督さんはみんな勝ちたいので『バントをしないと、うちは勝てないです』と言うんです。だから『いや、もう勝たなくていいですよ』と伝えました」。勝利にこだわるのではなく、選手が楽しめるのが絶対条件だった。
「足が速い選手はセーフティバントも特徴という声もあって、それも理解できるんですけど『それは他の大会でやってください』と言いました」。最後まで抵抗する声は消えなかったが「とにかく思い切り振って、思い切り投げる。野球の原点の大会をやりたかった」と押しきった。

現代野球は「バントが無駄になる」ことも…まずは思い切りできる環境を
宮本氏のNPB通算408犠打は歴代3位の記録。2001年にはシーズン67犠打のプロ野球記録を樹立し、今も破る選手は出ていない。そんなバントの名手が設定したバント禁止は、時代を先取りした戦術とも言える。
「現代野球で言うと、バントは無駄になる作戦の方が多い。無死一塁でバントで送って攻撃するより、無死一塁から打っていく方が得点の可能性は23~24%高いというデータが出てきている。先にやっておいて良かったなと思います」
それ以外にも大差の試合を減少させるため1試合でチーム盗塁数は6個までの制限(6回制なので1イニングに1つの計算)や、メンバー表に記載されている6年生全員の出場を義務付けるなど、独自ルールが存在する。リエントリー(再出場)、特別指名打者(EDH)なども導入。EDHは投手もDHも打席に入れる10人打線制度で「使うかどうかは、チームが選べます」という。
2019年に学童野球の全国大会で導入された70球の球数制限も、宮本慎也杯が先駆けて導入。これらは全て極力、多くの選手を試合に出場させたい思いから考えたものである。「本塁打と投手は野球選手の憧れ。球数制限は怪我防止の意味合いもありますけど、たくさんの子どもが登板できます」と力を込めた。
「僕はプロではバントばかりやっていました。子どもたちも、いずれはそうしないといけない時期が来るかもしれない。でも、小学生の時から体が小さいからバントしなさいというのは違うという気持ちもありました。小学生の時は野球を本当に楽しく、思い切りできる環境をできるだけ作ってあげたい」。いつかはバントする必要が出る可能性がある。そこにはバントの重要性を知る名手だからこそ、伝えたい思いがある。
(尾辻剛 / Go Otsuji)
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