「タイヤ引き練習」のメリットとは? 走攻守の技術向上に直結…過酷トレで得た“副産物”

岩手・東朋野球クラブの「タイヤ引き」練習の様子【写真:川浪康太郎】
岩手・東朋野球クラブの「タイヤ引き」練習の様子【写真:川浪康太郎】

東朋中軟式野球部が昨冬から取り組むタイヤの“押し引き”

「タイヤ押し」は下半身を鍛えるトレーニングとして、多くの野球指導の現場で採り入れられている。今年8月の「東北少年軟式野球大会」で優勝した岩手・大船渡市立東朋中軟式野球部(東朋野球クラブ)が「タイヤ押し」に加えて実践しているのが、「タイヤ引き」だ。当初はパワー強化を目的に始めたが、思わぬ“副産物”があったという。

 11月中旬、東朋中のグラウンドを訪れると、選手たちが後ろ方向に進みながらタイヤを引き、押して戻るドリルに取り組んでいた。距離は約20メートルで、これを6セット行う。かなりハードな練習に見えるが、指導する鈴木賢太コーチは「今日は楽な方ですよ」と笑う。12月の追い込み時期には塁間の距離で15~20セット行うと言うから驚きだ。

「重い物を動かすのって、基本的に体を曲げて伸ばす動作じゃないですか。それの全身を使うバージョンという解釈でやっています」と鈴木コーチ。押す動作をする時は特に股関節が大きく伸びる。スパイクを履いて足の回転を意識させたり、霜が溶けて地面がぬかるんでいる時に実施したりすると、より効果的だという。

 押す動作に引く動作も加え始めたのは昨年の冬頃。鈴木コーチが磯谷幸喜監督の目指す「打ち勝つ野球」を体現すべく、パワー強化につながるドリルを模索していた際、タイヤを引く動作が「つらい」と自ら体感したのがきっかけだった。「試しに子どもたちにやらせたら、『嫌だ』と言う子が続出した。『嫌だ』と言うということはつらいということで、つらいということは全身運動で、なおかつ背中側が鍛えられる意味で選手にとって良い前兆」。手応えを感じ、それから本格的に採り入れるようになった。

タイヤを引く全身運動が野球の技術向上に効果的だという【写真:川浪康太郎】
タイヤを引く全身運動が野球の技術向上に効果的だという【写真:川浪康太郎】

背中やハムストリングスを刺激する全身運動で技術向上へ

「タイヤ引き」の最大の特徴は、「後ろ側」の筋肉を鍛えられることだ。具体的には背中やハムストリングスを指す。守備の姿勢に近い中腰の状態でタイヤを引くと、自然と「後ろ側」に刺激が伝わる。

 バットを振る時やボールを投げる時は肩甲骨を寄せる動きが大切になるし、スムーズな体重移動をするためにはハムストリングスをうまく使わなければならない。腕力を鍛えられることは事前から予想がついていたが、走攻守すべての技術を向上させるのに必要な部位を強化できることは、取り入れてみて初めて分かった。

 また引く時はタイヤを手で強く握るため、握力も鍛えられる。握力もまた、野球に欠かせない要素だ。ボールを投げる際、最後まで指がかかるからこそ綺麗な回転がかかる。打撃面でも、バットを振る時は指が流れないようにしなければならない。

 鈴木コーチは「東朋中は普通の公立中学校。限られた予算と時間内で練習しないといけないので、新しい物を買うのではなく、すでにある物を有効的に使う。タイヤを押し引きすれば全身運動で満遍なく鍛えることができます」と話す。技術向上のヒントは案外、身近に転がっているのかもしれない。

(川浪康太郎 / Kotaro Kawanami)

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