高校野球への移行期に最適な“特殊球” 誕生から25年…中学軟式にもたらすメリット

佐々木朗希も在籍…岩手「オール気仙」はKボールで全国出場
部活動を引退した中学生が、軟式から硬式の高校野球への移行期に使うボールとして、2000年に考案された「Kボール」。岩手県は同年に「岩手県KB野球連盟」を発足させ、以降、Kボールを使用した大会を開催して普及を図ってきた。今年は、かつて佐々木朗希投手(ドジャース)もプレーしたKボールの地区選抜「オール気仙」が東北中学生KB野球大会を勝ち上がり、全国中学生都道府県対抗野球大会に出場。初戦を突破し、2回戦で敗れたものの長崎県選抜チーム相手に善戦した。
Kボールは軟球と硬球のどちらの要素も兼ね備える特殊なボール。大きさと重さは硬球と同じだが、軟球同様、ゴム製で中は空洞になっているため安全性は高い。硬球を使う高校野球が始まるまでの移行期に打ってつけだ。
岩手県で開催されるKボールの大会では、中学野球で使いがちな飛距離の出る複合バットの使用を禁止している。打者はボールが飛ばず苦労するが、その分打撃を工夫し、「しっかり振る」意識が身につく。またストライクゾーンが通常より広いため、投手もコントロールを気にせず「しっかり腕を振る」。野手、投手ともに数か月間でのレベルアップが見込まれる。
今年、オール気仙でプレーした大船渡市立東朋中軟式野球部(東朋野球クラブ)の須賀隆翔内野手(3年)は「最初はボールに苦戦して悪送球も多かったですが、徐々に慣れた。打球が飛ばない中でも走塁や小技を使いながら工夫して攻撃することができました」と話す。同じく東朋中の山口大将投手は「大きさも重さも違うので、遠心力を生かして投げた。全身を使う連動性のある投げ方を学べました」と手応えを口にした。

指導者にもメリット「野球を指導する環境を残したい」
長年、軟式中学生の技術向上に寄与してきたKボールだが、近年は別のメリットももたらしている。
「部活動の地域移行(地域展開)を見据えて、野球を教えたいと考える先生たちが活躍できる場にしたい。若くして教員になれて野球を教えたいけど、教えるチームがないというケースはよくある。そういう先生や地域の外部コーチが野球を指導する環境を残したいという思いもあるんです」
オール気仙で指導する東朋中の鈴木賢太コーチは、そう切実な思いを吐露する。少子化に伴う競技人口の減少により、9人揃わない野球部は年々増えている。指導の機会を求める教員が経験を積む場になるのだ。それは選手も同じで、自チームでは唯一の3年生で「エース兼主将」だった選手が、初めてレギュラー争いをすることで、試合に出ることのありがたみや上手くなるきっかけを再確認できるようになる。
夏までには部活動を終える中学生が、長ければ11月初旬まで野球に打ち込めるという点でも、また高校野球への「つなぎ」という面でもKボールのメリットは大きい。「競争」の場が減りつつある現代だからこそ、選手にとっても指導者にとっても有意義な時間となるだろう。
(川浪康太郎 / Kotaro Kawanami)
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