高知で行われているオリックスの秋季キャンプ。規格外のパワーで柵越えを連発する男がいる。昨年の育成ドラフト1位で入団した三方陽登外野手だ。今季は2軍で87試合に出場し、打率.248、8本塁打、36打点、10盗塁をマーク。育成選手ながら年間300打席以上を与えられた事実は、球団からの期待の高さの表れに他ならない。
伸びしろ十分なのは190センチ、97キロの恵まれた体格だけではない。打者に転向して4年しか経過していないという点だ。岡山・創志学園高時代は最速146キロを誇る投手として注目され、駒大に進学。打力を買われ、2年秋に野手へ転向した。卒業後は「最短でのプロ入り」を目指してBCリーグ・栃木に入団。1年目に打率.286、5本塁打をマークし、オリックスから育成1位指名を受けた異色の経歴の持ち主だ。
秋風が吹き抜けるグラウンドで、三方は静かにルーキーイヤーを振り返った。数字だけを見れば、育成1年目としては及第点と言えるかもしれない。だが、プロの壁は想像以上に高く、そして厚かった。春先はどん底だったという。
独立リーグで自信を深め、叩いたプロの門。しかし、2軍とはいえNPBの投手のキレやコントロールは別次元だった。自分のスイングができず、結果が出ない焦りからフォームを崩していった。3、4月は打率.181、0本塁打と壁にぶち当たった。そんな悪循環から救い出してくれたのは、首脳陣からの“金言”だった。
「水本(勝己)ヘッドコーチや風岡(尚幸2軍)監督に『足を上げて打ってみろ』と教えてもらったんです。それが5月の半ばぐらいでした。それも最初はうまくいかなかったのですが、1号を打った時から徐々に調子が上がってきて。最終的には8本打てましたし、打率は2割4分8厘で終わりましたけど、新しいフォームを自分の形にできたんじゃないかなと思います。そこは少し、自信に繋がったシーズンでした」
シーズン中に大きくフォームを変えることはリスクを伴うが、恐れている場合ではなかった。支配下登録をつかむには一秒たりとも時間を無駄にはできない。足を上げるフォームに変えた5月に1号を含む3本塁打を放ち、8月に3割をマークするなど打率も徐々に上げていった。
「最初はずっとすり足でやっていたんですけど、打つ時に結構肩が入ってしまっていて。速い真っすぐに差される感覚がありましたし、ボールの見え方もあまり良くなかったんです。だから外の変化球を追いかけてしまうことも多かった。でも、足を上げてから、両目でボールを見る意識に変わったことで、ボール球に手を出すことも以前より減りました。速い真っすぐに対しても、いい捉え方ができるようになりました。今まで感じたことのない『いい打席』が増えたので、足を上げてよかったなと思っています」
圧倒的なパワーは、誰にも負けないという自負がある。だが、力任せにバットを振っても確率は上がらない。ボールを線で捉える感覚をつかんだことで、安定した打撃を身につけることができた。
「(パワーは)結構ありますね。うまく捉えれば長打以上、ホームランになると思っているので、スイングも『バッ!』と力任せに振るのではなく、ゆったり振るというか。しっかりとボールのラインに合わせる感覚でやっていました」
糸井、雄平の成長を見届けた三木肇ヘッドコーチ「本気でやれる強い覚悟が必要」
確かな手応えをつかんだ一方、1軍の舞台を見据えれば課題は山積している。秋季キャンプでも、“悪癖”と徹底的に向き合っている。打撃練習中に、シーズン中も2軍を視察していた中嶋聡シニア・アドバイザー(SD)から身振り手振りで指導を受ける場面も見られた。
「足を上げて打ちに行く時に、後ろ体重になってしまうんです。だから外のボールにうまく力が伝わらないと、言われています。真っすぐに体重移動したいんですけど、少し後ろにのけぞるような形になってしまう。それが自分のクセでもあるので、今はそこを課題として取り組んでいます」
どこまでも自分を客観視し、現状に満足する様子は一切ない。プロでの1年を終え、「無駄な打席というか悪い時の打席内容が多かったので、そこはもう少しなんとかできたんじゃないかという反省があります」と唇を噛む。
新任の三木肇ヘッドコーチも、三方のポテンシャルに注目する。「持っている力は相当、高いですね。いろんな壁にぶつかったりして戦っていくんでしょうけど。一番は、そこに向かって本気でやれる強い覚悟が必要だと思います」と語る。
日本ハムとヤクルトの選手、コーチ時代に、野手に転向して主力に成長した糸井嘉男、雄平を見てきただけに「もちろん、相当練習しなければいけない。本当(他の)に野手が、びっくりするぐらいやっていたから。今の時代的に合っているか分からないですが、そこはひとつ条件というか、求められると思います」と口にする。
駒大の後輩・仲井慎がオリからドラ2指名「ビックリですね」
そんな三方にとって、心強い仲間がチームに加わる。10月のドラフト会議でオリックスから2位指名を受けた駒大の仲井慎投手だ。三方にとって2学年下の後輩で、共に汗を流した。今年6月の関東遠征時には食事を共にし、「オリックスに行きたいんですよね」と相談を受けていたという。
「高校時代は野手兼投手でしたが、大学は投手として入ってきたんです。でも、甲子園でも投げていましたし、僕の中ではピッチャーの印象が強かった。入ってきた時は僕も投手だったんですけど、見た瞬間に『こんな子が駒澤に来るんか』と驚きました。凄い投手やなって」
三方は投手から野手に転向し、プロの道を切り拓いた。後輩は野手から投手に専念し、同じユニホームに袖を通すことになった。ドラフト直前に願っていた“オリックス愛”、ポジションは違っても同じ“転向組”という縁に顔をほころばせる。
「まさか本当に一緒のチームになるなんてビックリですね。でも、関わりのある後輩が入ってきたので、素直に嬉しい。また一緒にご飯とか行けたらなと思います。同じ兵庫県出身でもありますし」
後輩の存在もまた、前に進むための起爆剤になるはず。同じ舞台に立つために、まずは支配下登録を勝ち取らなければいけない。手応えを問われると、表情を引き締めて前を向いた。
「最初の頃より結構、自信もついたので。もっとやってやろうという気持ちですね」
長打力に磨きをかけ、バットを振り続けた1年目。確かな手応えと悔しさを胸に秘め、23歳の戦いは続いていく。眩いスポットライトが当たる1軍の舞台へ。未完の大器は覚醒の時を目指す。