オリックス大補強の舞台裏 改革を託された男の哲学(中)
ホークス1年目で目撃したショッキングなシーン
今オフのオリックスの大補強を手掛けた球団本部副本部長兼編成部長の加藤康幸氏(48)。その経歴は実に異色だ。
学生時代はテニスに打ち込み、順天堂大学に進学、運動生理学を専攻。その後、筑波大大学院に進み1993年にダイエーに入社した。同社では社長室のスポーツ担当として主に陸上部やバレーボール部(オレンジアタッカーズ)などに携わった。その後、98年から福岡ダイエーホークスへと入団。王貞治監督の監督付としてプロ野球の世界へ活躍の場を移していった。
加藤氏は当時をこう回想する。
「僕の原点は陸上部だったんですけど、オリンピックに出る人たち、いわゆるアマチュアと言われる人たちは本気度が全然違うんですよね。勝ちに対する気持ちが。だって負けたら、お前ら人事部行け、総務部行け、ユニフォームを脱いで会社の伝票整理しろみたいな世界で、1日でも現役を長く続けるには勝たないとダメだったから。でも、僕がホークスにいって1年目にショッキングなシーンを見てしまったんですよね……」
東京ドームでの試合を連敗で終え、福岡へ移動する際のことだった。帰りの機内で、ある主力選手がだらしのない身なりでシートに座りながら、堂々と品のない雑誌を読んでいた。その横を子供たちが通過していく。これがプロかと目を疑った。
「だから僕の中でもこういう仕事に就いた時に、選手の意識を変えて、戦う集団にしなきゃいけないというのはありましたよね。特にアマチュアのオリンピックを目指す選手と接していたので、そう感じました」
だが、ホークスに馴染んでいくのはそう簡単ではなかった。「本社からスパイが送られてきた」というような報道もあり、現場からの警戒心も強かった。