日本の4番が誕生した「伝説の2週間」 筒香が批判を覚悟し名コーチと歩んだ軌跡
「元々持っている才能や技術を、どうやって解放するか」
ようやく自分の目指す方向性を認めてくれる人に出会った筒香は、「僕、1回死んだと思ってやります。批判されても頑張ります」と目の色を変えた。こうして「逆方向へのホームラン」をテーマに掲げた“伝説の2週間”がスタートした。
午前中の練習が終わると、午後2時から6時頃まで個別練習。「そんなに徹底的にやってなないけどね」と大村コーチは笑うが、朝から晩までマンツーマンで、明確になった目標に突き進む時間は濃厚だった。
「いろんなことをやりましたよ。ある日はインハイの直球だけ打って、次の日はアウトローの変化球だけ。逆方向へのホームランという基本線があって、毎日違ったサブタイトルがつく感じ。ホームランを打った後の歩き方まで練習しました。レフトスタンドにホームランを打った後のリアクションから、一塁までどうに行くかまで(笑)。
細かいところまでビジュアライゼーション=映像化する作業が大事。練習で1回成功すると、本番でも再現しやすい。細かい設定もしましたよ。実況風に声に出しながら『開幕戦です。場所は東京ドーム。ピッチャーは菅野だ。さぁ、新スタイルの筒香です。ニュー筒香だ。レフトへ打った~!』なんてね。
何よりも大きかったのは、彼がやろうと思ったこと。やっぱり『何だ、そのバッティングは』って批判は受けたけど、自分の思い描く通りの練習を続けたことですよ。僕はそれをサポートしただけ。やると決めたことを貫いた、彼の気持ちがすごく立派だと思う。そのうち結果が出始めたから、もう誰も何も言わなくなった。出る杭は打たれるけど、出過ぎてしまえば打たれなりますから(笑)。アイツはよく頑張った」
2014年以降の筒香の活躍は、ご覧の通りだ。筒香に限らず、現在所属するロッテでも「ティーチング(教える)」ではなく「コーチング(導く)」を意識しているという。
「一方的に選手に知識を押しつけて選手がうまくなるかっていったら、それは違う。才能ある選手は自由にやらせた方が開花する。元々持っている才能や技術を、どうやって外に出すか、解放するかのプロセスをサポートするだけです。自分がこの世界で何がしたいのか。どうなりたいのか。それを実現させるために、何が障害になっているのか。そのリサーチを手伝うだけ。
枠に入れようとしても無駄です。人はそれぞれ型を持っているから。子供に自由に絵を描かせたら上手いこと書くでしょ。いいんですよ、それで」
才能を解き放たれた筒香は、日本を代表する打者と呼ばれるにまでなった。だが、そこに甘んじることなく、人として選手として成長し続けるため、日々の努力を忘れない。「あとはそのまま自分でやれば大丈夫」。世に送り出した“愛弟子”の活躍を頼もしく見守りつつ、大村コーチは今年も新たな才能の解放をサポートする。
(佐藤直子 / Naoko Sato)