「僕らがどれだけ彼から力をもらったか」― 今も広島に息づく黒田博樹の流儀

2006年のエピソード、「誰もが驚きました」

 そんな黒田氏は「男気」という言葉も話題となったが、メジャー挑戦する前の2006年には右腕の人柄を象徴するような試合があったと石井氏は振り返る。

「肘の手術前で、そのシーズンラスト1試合でフリーエージェントで移籍するかしないかという試合があった。『手術前に投げなくていい』という意見はあったのですが、本人は『投げる』と言い切りました。試合に登板する事は大きなリスクもありました。それでも彼は『僕はこの1試合で野球人生が終わってもいいんです。僕が投げることで1人でも何かを感じる人がいたら、それでいいんです』と話していました。

 誰もが驚きましたが、彼は引退するまでずっと同じ姿勢を貫いていたように思います。自分のためじゃなくて誰かのため。見に来てくれる人のための何かを伝えたい。彼が投げるとイキイキする人たちもいるじゃないですか。そのために投げるという彼の哲学はブレなかったですね」

 右腕は2006年シーズン終了時に右肘のクリーニング手術を実施。FA権を取得したが、結果的に行使せずに広島残留を決め、メジャー移籍も翌シーズンオフに持ち越しとなった。その年の最終戦。黒田氏は右肘負傷からの復帰マウンドに上がり、プロ初セーブを挙げていたが、その裏にはファンに対する熱い思いが込められていた。

「メジャーで実績を残して、広島に帰ってきても、周囲に対する接し方、全く変わっていませんでした。アウトプットする内容は当然変わりましたが、1年目、メジャーに移籍した時、帰ってきた時、すべて同じ姿勢でした。自分はもちろん、みんな最初は緊張していましたが、彼の人柄というか器の大きさなのか、いつのまにか黒田の話に聞き入っていましたね。色々な選手を見てきましたけど、彼はナンバーワンです」

 石井氏はそう語る。

 選手、スタッフが引退後も敬意を払い続ける黒田氏。 身を持って示し続けた男気溢れるプロ意識は広島の選手に継承されている。

【動画】MLBでも強打者を圧倒した切れ味鋭い2シームと投球術…黒田博樹のヤンキース在籍時のラスト登板ハイライト

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