苦しみあがる姿を見届けること―― 元鷹・斉藤氏が考える松坂大輔への敬意
失策の京田にグータッチ、松坂が見せたエースの矜持
巨人戦では、打ち取った打球が内野と外野の間に落ちる。内野ゴロを17年新人王の好守、京田陽介がまさかの暴投をする。うまくいきそうでいかない、ここ数年を彷彿とさせるような試合内容だった。
「久しぶりに投げる日をぶち壊してしまった」
そう気にかける失策直後の京田を、松坂はマウンド上でグータッチでなぐさめていた。これこそがエースと呼ばれた男の矜持でなかろうか。
150キロを超える豪速球。消えるように鋭く曲がる変化球。高校時代から「怪物」と呼ばれ、マウンド上では常に威風堂々と見えた。時には打者の厳しいところを突き、一触即発の雰囲気を作ることもあった。まさに投手らしい投手だった。
それと同時にマウンド上では見せることのない、憎めない一面も併せ持っている。
「すみませーん、帆足くんの部屋で寝てました」
西武時代の春季キャンプ宿舎でのこと。地元ラジオ局に生放送出演予定であったが、現れる気配がない。慌てる関係者を横目に満面の笑顔で登場した。なんとチームメート帆足和幸(現ソフトバンク打撃投手)の部屋で昼寝をしてしまったという。それまでの雰囲気が一変し、誰もが笑顔に包まれた。「またかよ、ダイスケ…」と広報担当者が胸をなでおろしていたのは言うまでもない。
オンとオフのギャップの幅が松坂の大きな魅力である。しかし、それもマウンド上でのあの姿があってこそ、というのは見る者のわがままであろうか。
もう1回、もう1回、何度でも松坂大輔の投球を見続けていたい。
(山岡則夫 / Norio Yamaoka)
山岡則夫 プロフィール
1972年島根県出身。千葉大学卒業後、アパレル会社勤務などを経て01年にInnings,Co.を設立、雑誌Ballpark Time!を発刊。現在はBallparkレーベルとして様々な書籍、雑誌を企画、製作するほか、多くの雑誌やホームページに寄稿している。最新刊は「岩隈久志のピッチングバイブル」、「躍進する広島カープを支える選手たち」(株式会社舵社)。Ballpark Time!オフィシャルページ(http://www.ballparktime.com)にて取材日記を定期的に更新中。