徹底した「見逃し練習」で全国V 東京・上一色中が“143キロ右腕”苦にしなかったワケ

上一色中・西尾弘幸監督【写真提供:上一色中学野球部】
上一色中・西尾弘幸監督【写真提供:上一色中学野球部】

窮地を救った控え選手…チーム力の底上げも優勝の要因

 優勝候補を破って勢いに乗った上一色中は、そのまま頂点まで駆け上がった。大会ナンバーワン投手を打ち崩したことが優勝の大きな要因だったが、西尾監督が挙げるもう1つの理由には「控え選手のレベルアップ」がある。

 今年で指導歴34年目となる西尾監督は、かつてレギュラーと控えを明確に分けていた。練習試合でレギュラーに経験を積ませ、控え選手はチームのサポート役だった。しかし、考え方を見直し、今年は特に控え選手が実戦の場を踏む機会を増やした。週末に練習試合を組む時は、1試合目がレギュラー、2試合目は控えというケースが多かったという。

 チャンスを得た控え選手は、指揮官の予想以上に成長していく。紅白戦ではレギュラーチームを負かす時もあった。西尾監督は「多くの選手に試合を経験させることが、いかに大事かを知りました。控えメンバーの存在がチーム力を格段に上げました」と強調する。

 控え選手は全国大会の舞台でも躍動し、チームのピンチを救った。無死一、二塁から始まる延長タイブレークにもつれこんだ三和クラブJr.(中国代表・広島)との準決勝。8回裏の攻撃で代走を起用した上一色中は、9回表の守備でバッテリーに控え選手が入った。9回表、三和クラブJr.の先頭打者は犠打を試みて捕手の前に打球を転がす。西尾監督は1死二、三塁を覚悟したが、岡田一桜捕手(3年)は迷わず三塁に送球。間一髪のタイミングでアウトにした。

 指揮官が「ビッグプレーでした」と振り返る好守備で無失点に切り抜けた上一色中は、その裏に今岡巧外野手(3年)を代打で起用する。今岡は三塁線へ絶妙なバントを決め、無死満塁とチャンスを広げた。続く打者が安打を放ち、チームはサヨナラで勝利した。

 岡田も今岡も背番号2桁の控え選手だが、練習試合で経験を積み、大舞台でもチームに貢献する準備ができていた。西尾監督は「試合に出たくてベンチで私をずっと見ていた選手もいましたし、控え選手はベンチで仲間を必死に応援していました。控えメンバーの力がなければ、厳しい戦いを勝ち抜くことはできませんでした」と語った。

 最速143キロ右腕の攻略も、全国制覇も決して偶然ではない。上一色中の選手たちは体も心も準備を万全に整えていた。

(間淳 / Jun Aida)

少年野球指導の「今」を知りたい 指導者や保護者に役立つ情報は「First-Pitch」へ

 球速を上げたい、打球を遠くに飛ばしたい……。「Full-Count」のきょうだいサイト「First-Pitch」では、野球少年・少女や指導者・保護者の皆さんが知りたい指導方法や、育成現場の“今”を伝えています。野球の楽しさを覚える入り口として、疑問解決への糸口として、役立つ情報を日々発信します。

■「First-Pitch」のURLはこちら
https://first-pitch.jp/

RECOMMEND

KEYWORD

CATEGORY