イチローとロッド・カルー、2人が繋がったあの夏 今明かされる、知られざるストーリー
感性というもう一つの類似点
10年前の取材を機にカルー氏との縁は始まった。当時の話で印象に残ったものが2つある。まず、イチローの真骨頂とも言うべき「内野安打」に関して「私も現役時代は定位置より前に就かれ警戒されたが、バントをからめたり野手の正面を外す打球を転がして一塁を陥れた」と振り返っている。もう一つが「構え」だった。
打席に立つロッド・カルーの姿を知るメジャーファンであれば、極端に体を屈める独特のスタイルをすぐ浮かべるだろう。これには理由があった。
「メジャーデビューした頃、私は高めのボール球に手を出す癖があって、ずいぶんと痛い目に遭わされました。ノーラン・ライアンにはカモにされましたよ。そこで対策を考えざるを得なかったわけで、行き着いたのが上半身を極端に屈めるあの構えなんです。コーチからアドバイスを受けたわけでもなく、自分で考えました。あの構えで来る日も来る日も練習しました」
日本時代に振り子打法を編み出し、メジャー入り後は構える前に右手1本でバットを立てる侍ポーズで臨むなど、創造の感性にも共通項が見える。
振り返れば、東京ドームホテルで行われた先日の深夜の引退会見で担当記者がぶつけた最後の「孤独感」の質問に対して、自身の内面の一部をのぞかせるように話したイチローはまるでカルー氏の心の来歴をたどっていたかのようにも思えてくる。
「アメリカに来て、メジャーリーグに来て、外国人になったこと。アメリカでは僕は外国人ですから。このことは外国人になったことで人の心をおもんぱかったり、痛みが分かったり、今までなかった自分が現れたんですよね」
桜が芳香を放ち出した3月、イチローは揺籃の地でメジャー最終章を閉じた。そして、聖地アメリカではかつての異能の打者ロッド・カルー氏が味読に値したイチローの19章に謝辞を記した。
2人の現役生活が19年だったのも偶然ではない気がする。
◆ロッド・カルー:1967年に21歳の若さでツインズからデビューし、エンゼルスでも活躍。19年間の現役生活でオールスター出場18回を誇る。新人王、MVP、7度の首位打者に輝き15年連続3割を記録する70年代を代表する巧打者。メジャー歴代26位の通算3053安打を記録。その偉大なる経歴を称え、大リーグ機構は16年からア・リーグ首位打者の呼称を「ロッド・カルー賞」としている。エンゼルスを自由契約となった翌年の86年に40歳で現役を引退した。
(木崎英夫 / Hideo Kizaki)