井口資仁の“不満”が吹き飛んだ名将の一言 大浴場で打撃論伝授…“2人の師”から学んだ哲学|THE KEYWORD 井口資仁 #2

  • 佐藤直子
    佐藤直子 2026.04.14
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オジー・ギーエン氏(左から)、井口資仁氏、王貞治氏【写真:アフロ、増田美咲、加治屋友輝】オジー・ギーエン氏(左から)、井口資仁氏、王貞治氏【写真:アフロ、増田美咲、加治屋友輝】

井口資仁氏・第2回、2人の指導者に感じた「挑戦」への姿勢

 2018年から5シーズン、ロッテで監督を務めた井口資仁氏には、チームを率いるにあたり影響を受けた人物が2人いる。ダイエー(現ソフトバンク)時代の恩師・王貞治氏と、ホワイトソックス時代の恩師であるオジー・ギーエン氏だ。2人の「挑戦」に対する姿勢から多くの学びを得たという。第2回は「2人の師」を語る。

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 井口氏がプロの門を叩いた1997年、低迷していたダイエーの改革に取り組んでいたのが、監督就任3年目の王氏だった。王氏と言えば、言わずと知れた「世界のホームラン王」。通算868本塁打という記録は、野球史に燦然と輝く。

 大きな期待を受けて1年目に1軍デビューを飾った井口氏だが、決して順風満帆なスタートではなかった。プロの投手を前にタイミングの取り方などで頭を悩ませていた時、声を掛けてくれたのが、他でもない王氏だった。圧倒的な存在でありながら、素顔はとても気さくで、球場では選手と同じ大浴場を使っていた。風呂場で打撃論に花が咲くこともあり、「身ぶり手ぶりを交えながら教えていただくこともありました」と懐かしそうに話す。

 現役時代の話や、監督となってからの哲学に触れるたび、常に成長を求めて挑戦する王氏の探究心は「レベルが違う」と感じたという。

「王さんは現役時代、記録を作った後も毎年キャリアハイを狙うために打撃フォームを変えていたそうです。その話を聞いた時、頂点を極めた打者でも満足することはないんだ、リスクを恐れずに挑戦し続ける姿勢はすごいなと驚きました」

1997年5月3日、プロ1号となる満塁弾を放った井口氏【写真:アフロ】1997年5月3日、プロ1号となる満塁弾を放った井口氏【写真:アフロ】

 現状維持は衰退という言葉があるように、長年好成績を残す選手は現状に満足しない。「大谷(翔平)選手は54本塁打を打った後、バットを長くしたそうですが、さらに上を見据えてリスクを厭わない姿は、まさに王さんと同じ。僕も毎年キャリアハイを狙っていましたけど、どこか満足していたんだと思います。王さんや大谷選手はひとつ違うレベルで突き詰めている。そうでなければ、あれだけの成績は残せませんよ」。井口氏ほど能力がある選手でも、挑戦し続けることは決して簡単なことではなかった。

メディアを介して選手を労う…モヤモヤを解消した師の気遣い

 もう1人の師が、ベネズエラ出身のギーエン氏だ。ホワイトソックスで長く遊撃手として活躍。8年間ホワイトソックスで監督を務め、2度の地区優勝に導いた。指導者としては卓越したコミュニケーション能力で、選手を挑戦へと駆り立てる達人だった。

 クラブハウス内の監督室は、常にドアが開いたまま。クラブハウスで選手と一緒に談笑する光景は日常の一コマで、野球でもプライベートでも、困ったことがあれば誰でも相談に乗り、嬉しいことがあれば一緒に喜ぶ、そんな環境を生み出していた。

 2005年、ア・リーグ優勝決定シリーズを制し、井口氏と抱き合うギーエン氏【写真:アフロ】 2005年、ア・リーグ優勝決定シリーズを制し、井口氏と抱き合うギーエン氏【写真:アフロ】

 メジャー移籍後、主軸だったダイエー時代とは異なり、2番打者として“つなぐ打撃”に挑戦した井口氏。チーム全員が共有する「勝つ」という目標に向かう上で、自分が果たすべき役割だと理解はしていた。だが、ファウルで粘って相手投手に多く投げさせたり、進塁打で走者を進めたり、成績としては残らない仕事が続き、モヤモヤした思いを募らせることもあった。

「チームに求められる役割は入団する時から分かっていたことだし、ある程度は覚悟していたこと。慣れない役割に挑戦し続けられたのは、オジーのコミュニケーション能力に救われたことが大きかったと思います。世界一になった後、メディアに対して『自分にとって2005年のMVPはイグチだった』と言ってくれたことで、溜まっていたフラストレーションを全部吐き出すことができました」

 引退後、井口氏はロッテで監督も務めた。「選手と正面から向き合いながらも、メディアを介して評価を伝えるなど、コミュニケーションという点ではものすごく勉強させてもらいました」。レジェンド2人からの教えを自らの指導にも生かし、チームを2度のAクラスに導いた。

 理想とするのは「王さんとオジーの合体させたような監督」だという。「出会った中でも素晴らしい監督2人なので、いいところ取りをしたいなと(笑)。また監督をする機会があれば、目指していきたい姿ですね」。卓越した探究心とコミュニケーション能力を備えた指揮官として、再び井口氏が采配を振るう姿を見たいところだ。

(佐藤直子 / Naoko Sato)

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