星野監督にバケツ持って立たされた左腕 苦悩からMVPまで見届けたスカウトの感慨|球界群像 早川実#6

中日の星野仙一元監督(左)と野口茂樹氏【写真:共同通信社】中日の星野仙一元監督(左)と野口茂樹氏【写真:共同通信社】

1999年に19勝でMVP…元中日・野口茂樹氏の担当スカウトが語る秘話

 ドラフト指名を受けた新人たちは、プロ人生のスタートに向けて、胸躍らせて準備に取りかかっていることだろう。もうすでに指名順位は関係ない。横一線からの勝負が始まっている。2018年に亡くなった星野仙一氏の側近中の側近として知られる早川実氏は、中日と楽天でスカウトも務めた。いろんな思い入れのある選手はいる。なかでも忘れられない選手が、中日が優勝した1999年シーズンでリーグMVPに輝いた野口茂樹投手だという。

 星野監督の第1次政権は1991年に終わり、1992年シーズンから高木守道氏が中日の監督に就任した。闘将は野球評論家となり、監督付広報だった早川氏は中国、四国地区担当スカウトに転身し、岡山へ単身赴任した。そのときに出会ったのが野口だ。「愛媛の丹原高校にいい投手がいるって評判だったので、見に行った。驚いたのはカーブ。いったん上にいって、曲がり落ちるみたいなね。確かにいいと思った」。

 だが、選抜大会帰りの松山商とのチャレンジマッチで、肘を痛めて降板。故障者となった。野口は夏の大会までには何とか間に合うように治療した。それでも他チームのスカウトは半信半疑だったが、早川氏は「治りさえすればプロに行ける子」と判断した。

 ドラフト前には野口サイドにはこう伝えたという。「中日が獲らなくても、絶対プロ野球で仕事ができる子。どこに指名されるかわからないけど、楽しみですね」。その年のドラフトの目玉は、星稜(石川)の松井秀喜。中日も指名したが、くじで外れ、1位は佐藤秀樹投手(三菱重工横浜)になった。2位は鶴田泰投手(駒大)、そして3位で野口。「うれしかったですね、やっぱり」と早川氏は振り返る。

 ちなみに名古屋市の中日球団事務所に野口とその母親を連れて行ったときにはハプニングも。「事務所までエレベーターで上がっていったんだけど、開いた瞬間、テレビカメラが待ち構えていて、アナウンサーから『野口投手のお父さんですか』って聞かれたから、ふざけて『はい』って答えた。アナウンサーが新人だったから、俺のことを知らなかったわけ。でも、あれ、カメラ、回っていたと思うけどね」。

担当スカウトから投手コーチへ…野口を励まし続けた日々

 しかし、野口はプロに入って壁にぶち当たった。得意のカーブが投げられなくなり、制球も悪くなった。星野第2次政権が始まった1995年オフ、早川氏は1軍投手コーチに就任。闘将からは「野口を何とかしろ、おまえが獲ってきたんだろ」と指令を出された。フォームの問題点などを修正していったが「星野さんは野口に厳しかったですね。キャンプの紅白戦で2つ四球を出したら交代。バケツを持たされて、立たされたり……」。

 ほかにも頭を丸めろといわれて、スキンヘッドにしたこともあったが、その都度、早川氏は「期待の裏返しだから」と野口を励まし続けた。実際、闘将は怒った分、チャンスをくれた。そんな日々が糧となり、調子を取り戻し、成長していった。1996年8月11日の巨人戦(東京ドーム)では、プロ初完封勝利をノーヒットノーランで飾った。「自分が獲ってきた選手と同じユニホームを着て、ベンチにいて、その偉業を一緒に喜べたことが一番の思い出。そういうケースってあまりないと思うから」と早川氏はしみじみという。

 野口は星野中日が優勝した1999年にはセ・リーグMVPにも輝いた。早川氏にとってはまさに自慢の選手だが、もちろん、まだほかにも……。入団のときに一生懸命“好感度アップ作戦”を考えた、あの選手も、とても印象深いという。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

球界群像〜早川実編〜

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