新人王獲ったのに「僕が打てないから…」 常に送られた刺客、予期せぬ新庄剛志との争い

元阪神、中日の久慈照嘉氏【写真:山口真司】
元阪神、中日の久慈照嘉氏【写真:山口真司】

新庄剛志と遊撃争い…久慈照嘉氏は抜群の守備力で譲らなかった

 常にライバルがいた。元阪神、中日内野手の久慈照嘉氏は1992年のプロ1年目から7シーズン連続で規定打席に到達した。その間、ショートのレギュラーポジションを守り抜いたが、毎年のように現われる“対抗馬”との熾烈な争いを制してのことでもあった。プロ2年目の1993年の春季キャンプでは強肩、強打のショートとして期待された新庄剛志内野手(現日本ハム監督)を、久慈氏が総合的な守備力で退けた。

「自分の場合、競争に勝たなければいけないというのが常だった。キャンプでポジションを見ればわかる。今年は3人いるわとか、4人いるわとかね。セカンドは和田(豊)さんでレギュラーは決まっているし、サードは外国人。でもショートは何で、3人も4人もいるんだ、みたいな……」と久慈氏は現役時代の激しいバトルを思い出しながら話した。たとえシーズンで結果を残しても、安心できない、気が抜けない日々だった。

 プロ1年目(1992年)からレギュラーをつかんだ久慈氏だが、2年目(1993年)は新庄がライバルになった。「まぁ、僕が打てないから、打てるショートを、ってことでしょう。新庄本人もショートをやりたいって言ったんでしょうね」。前年に久慈氏は新庄を5票上回って新人王に輝いた。久慈氏は121試合、打率.245、0本塁打、21打点。一方、新庄は規定打席不足ながら95試合、打率.278、11本塁打、46打点の成績だった。

 打撃成績は新庄の方が上でも、久慈氏の守備力がそれ以上に高く評価されての新人王だったが、その相手と今度は同じポジションで“ガチンコ対決”になったわけだ。亀山努外野手との亀新フィーバーが巻き起こったように、新庄は人気も抜群。強肩という魅力もあった。それでも結果は久慈氏の勝利。圧倒的なショートの守備力でポジションを譲らなかった。新庄は外野手に専念して、その年23本塁打を放つなど、力を発揮した。

 ただし、その後も“刺客”は送られ続けた。「八木(裕)さんがショートをやったりとか、近鉄から(トレードで)米崎(薫臣)さんとかも来ましたからね。毎年のようにライバルが来るってことは、ある意味、それが会社の評価じゃないですか。もうちょっと久慈より打てるヤツ、守れるヤツがいるんじゃないかって感じでね」と久慈氏は振り返る。その都度はねのけてきたが、技術的なことはもちろん、精神的にもタフでなければ乗り越えられなかったはずだ。

 久慈氏はこう話す。「だけど、そういうふうに常に誰かがいたおかげで、僕はずっと出られたってこともあると思います。ポジションを“はい、どうぞ”って感じじゃなかったのが、僕にはよかったのかなってね。いつも守備では絶対負けないと思ってやっていましたから。それで負けていたら、とっくにやめていると思いますしね」。ライバルとの戦いが自然と自身のレベルも高めた。むしろプラスになったと考えているようだ。

定位置剥奪危機も自ら打破…1996年に遊撃で全試合フルイニング出場

 ピンチの時期がなかったわけではない。プロ4年目の1995年、中村勝広監督が7月に途中休養し、藤田平監督代行となった時に「僕は外されているんですよ。藤田さんは星野(修)を結構使ったんでね」と久慈氏は話す。8月下旬から星野のショートでの先発出場が増え、久慈氏は守備、代打要員になった。しかし、それもひっくり返した。「反骨心じゃないけど、燃えるものがあって、次に使ってもらった時に3安打したんですよ」。

 9月20日の横浜戦(横浜)で久しぶりに「2番・遊撃」で起用され、5打数3安打。「藤田さんはそこからまた僕を使ってくれたんです」。翌1996年、藤田監督は9月に解任されたが、久慈氏は開幕からショートで全130試合フルイニング出場を果たした。「フルイニングはなかなかできませんから、結果的には前の年のことがあってよかったってことですね。それが藤田さん流だったのかはわかりませんけどね」。

 1996年5月18日の広島戦(甲子園)で、久慈氏は9回2死から二塁打を放ち、広島のロビンソン・チェコ投手のノーヒットノーランを阻止した。6月23日の広島戦(富山)で、阪神は山崎健投手に1安打完封されたが、その1本は久慈氏が初回に放った二塁打だった。それより前の1993年4月27日の中日戦(ナゴヤ球場)でも9回1死から右前打を放ち、中日・郭源治投手のノーヒットノーランを阻んでいた。

「(ノーノー阻止は)たまたまですよ。その後、中日で2回やられていますから。(阪神の)川尻(哲郎)さんと(広島の)佐々岡(真司)さんにね」と笑ったが、そう簡単に何度もできることではないだろう。逆境に強い。土壇場にも強い。結局、阪神時代にショートのレギュラーの座を一度も渡さなかった久慈氏の、それは持ち味のひとつだった。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

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