嫌だった中日行き「あそこだけは」 知らぬ番号から着信…嫁の横で察したトレード

元阪神、中日の久慈照嘉氏【写真:山口真司】
元阪神、中日の久慈照嘉氏【写真:山口真司】

1997年シーズン終了直後、久慈照嘉氏の携帯電話が何度も鳴った

 まさかの出来事だった。現役時代に守備の名手として知られた久慈照嘉氏は、1997年オフに阪神から中日にトレード移籍となった。1992年のプロ1年目から阪神に在籍した6シーズンすべてで規定打席に達し、ショートのレギュラーを務めてきた。1997年も126試合に出場し、守備でチームに貢献し、打撃も打率.257、3本塁打、20打点。それだけに「むちゃくちゃ、びっくりでした」。トレード通告は10月12日のシーズン最終戦後に受けたという。

 1997年は吉田義男氏の3度目の監督シーズン1年目だった。1985年に阪神を日本一に導いた名将の下で、虎ナインは奮起し、6月終了時点では首位ヤクルトから10.5ゲーム差ながら3位につけていたが、最終的には首位から21ゲーム差の5位に終わった。久慈氏は開幕の広島戦(4月5日、広島)に「2番・遊撃」でスタメン出場し、4打数2安打1打点と好発進。阪神の看板選手の1人として、4度目の出場となったオールスターゲームにはファン投票で選出された。

 8月21日の巨人戦(東京ドーム)では槙原寛己投手からシーズン自己最多の3号ソロ。入団1年目から6年連続で規定打席に到達するなど、むしろ、これまで以上に結果を残した年でもあった。1996年ドラフト1位で今岡誠内野手が加わっていたとはいえ、ライバルと競うのはいつものこと。さすがにトレードまでは予想していなかった。

 通告を受けたのは10月12日のシーズン最終戦後。「その日は亀山(努)の引退セレモニーがあるから、僕と関川(浩一)さんの奥さん2人も亀山のことを知っているから球場に見に来ていたんです。試合が終わってから関川さんのところと、大阪でお疲れさんの食事会をしようってなっていたんですよ。亀山を胴上げして、秋季練習のこととかのミーティングを終えて、駐車場に行って、関川さんが奥さんを乗せて車を出した後ですよ。僕の携帯電話が鳴ったんです」。

 最初は出なかったという。「知らない電話番号だったんでね。でもその後も着信、着信ってひっきりなしに鳴るから、ウチの嫁さんも『誰』ってなって『出たら』というから、出たら球団の編成トップの西山(和良)さんでした。西山さんの携帯番号は登録していなかったし、知らなかったんですよ。電話では『ああ、お疲れ、今からちょっと大事な話があるから、神戸のホテルオークラに来てほしいんだけど』って言われました」。

関川浩一とともに中日へトレード「あそこだけは嫌だよなと話していた」

 久慈氏はそれを聞いて「マジですか。トレードですか」と思わず口にしたという。「『電話では詳しいことは言えないから』って電話を切りました。嫁に『どうしたの』って言われて『たぶん、トレードだよ』って。お互い“ハッ”じゃないですか。そしたら、今度は関川さんから電話がかかってきて『俺、飯行けないわ、トレードだよ。会社に呼ばれた』って。『ちょっと待ってください。今からどこに行くんですか』って聞いたら同じ場所のオークラだったんです」。

 つい1時間ちょっと前までは思ってもいない展開だった。「関川さんに『僕もそうですよ』と言ったら『えーっ、なんで』って。『いや、何でって言われても』なんて話をして、落ち合ってオークラに行きました」。最初に関川氏が呼ばれた。「戻って来られた時『どこでした』と聞いたら『名古屋だよ』って。行く前に(中日監督の)星野(仙一)さんのところは怖いな、あそこだけは嫌だよなって2人で話していたんですけどね」。

 続けて久慈氏が呼ばれて、関川氏と同じく中日へのトレードを通告された。「あの時のことは鮮明に覚えています。『(中日の)大豊(泰昭外野手)と矢野(輝弘捕手)と2対2だから』って。『明日、新聞に出るから』って言われました。戻って関川さんに『俺も名古屋でした。2対2らしいですよ』と言ったら『マジか』ってね。でも、まだ2人一緒だったから『まぁ、良かったね』とはなったんですけどね」。

 星野中日は本拠地が狭いナゴヤ球場から広いナゴヤドームに移転した1997年、最下位に終わった。ナゴヤ球場時代は「強竜打線」が看板のひとつだったが、ナゴヤドームでは通じず、守り重視の野球への転換が図られ、久慈氏と関川氏に白羽の矢が立った。中軸の大豊と成長が期待された矢野を出してまで星野監督が成立させたトレードだった。「星野さんはボスって感じでしたね」。久慈氏にとって、この闘将との出会いも自身の野球人生に影響を与えるものとなる。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

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