社長の「いらん」に「じゃあ、やめますわ!」 二転三転の監督人事…割食ったエース|球界群像 小松辰雄#14

1994年10月19日に引退会見を行った中日・小松辰雄【写真:共同通信社】1994年10月19日に引退会見を行った中日・小松辰雄【写真:共同通信社】

小松辰雄氏は1994年限りで引退…「もう1年」の訴えも却下された

 かつて中日のエースとして君臨した野球評論家の小松辰雄氏の公式戦ラスト登板は1994年8月27日のヤクルト戦(神宮)だった。先発して1回2/3、4失点でKOされて終わった。功労者なのに本拠地ナゴヤ球場で公式戦フィニッシュとならなかったのは事情があった。当初はやめるつもりがなかったこと。そして最終戦で決着した「10・8」の巨人戦が関係していた。

 8月27日に神宮でKOされた後、小松氏は高木守道監督に「お前、来年もやりたいんだろ」と聞かれ「やりたいですね」と答えたという。すると「今年はチームももう駄目だから、若いヤツにチャンスをくれるか、3軍で調整してくれ」と言われた。中日はその日で泥沼の8連敗。高木監督の同年限りの退任も一度決まり、いよいよ苦しくなったところでの話に「わかりました」と了承した。

 それから、しばらくしてから球団に呼ばれた。本田威志総務から「来年は星野(仙一氏)が監督をやるから、コーチをやってくれないか」と言われた。事実上の引退勧告だった。小松氏は「中山(了球団)社長と話をさせてほしい」と頼んだ。会って「もう1年、やらせてほしい」と訴えたが、社長は首を縦に振らなかった。「『じゃあ小松辰雄って選手はいらないんですか』って聞いたら『いらん!』と言われて『じゃあ、やめますわ!』って」。それで引退が決まった。

 その後、高木監督から「俺はそんなこと知らなかった」と電話がかかってきた。「じゃあ俺は来年できるんですか」と聞いたら「俺は構わん」と。でもそれから3日くらいして、また電話がかかってきて「俺はいいんだけど、会社がね」って言うから「『だからやめるって言っているじゃないですか』って。まぁそんなこともあったね」。正直、やめたくなかったという。「あと1年やれば、鈴木(孝政)さんの17年を超えて18年になったし、2000イニングとか、1500奪三振とか目標の数字もあったからね」と今でも無念の思いを隠さない。

現在は名古屋の「焼処 旨い物 海鮮山」でオーナーを務める小松辰雄氏【写真:山口真司】現在は名古屋の「焼処 旨い物 海鮮山」でオーナーを務める小松辰雄氏【写真:山口真司】

1995年のオリとのオープン戦でラスト登板…イチローに二塁打を喫した

 引退試合もナゴヤ球場での巨人との最終戦の予定だったが、それさえもできなくなった。長嶋巨人が失速し、中日が巻き返し、最終戦は勝った方が優勝という「10・8決戦」になったからだ。「最後の試合に登板して、セレモニーもすることになっていたんだけど、それどころじゃなくなったんでね」。中日は敗れて優勝は逃したが、高木監督は一転して留任が決まり、星野監督の復帰は先送りとなった。しかし、小松氏の引退は変わらなかった。

 1995年のオリックスとのオープン戦が引退試合になった。2軍投手コーチに就任していた小松氏は打撃投手を務めて肩も作ってのマウンドだった。「5回だったかな、打者がイチローの時に登板した」。前年に210安打を放って大ブレークした相手に1球目はボール。「四球になったらしゃれにならないと思って真っ直ぐをすーっと真ん中に投げたら、打ってきたんだよ、あいつ。まだ打たないと思って投げたのに……」。右中間二塁打だった。

「あれは打っちゃいかんでしょ。2球しか投げてないんだから。打たれるのはいいけど、5、6球は投げさせてくれんと、見に来た人もいるんだし……。2球だし、どうしようか、もう1人いこうかと思ったけど、高木さんが(交代を告げに)出てきたから、代わったけどね」。悔いは残ったが、これもまた印象深い思い出になっている。

 1996年から星野仙一氏が当初の予定より1年遅れで中日監督に復帰した。第2次星野政権のスタートだ。小松氏は1軍投手コーチを務めたが……。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

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