「年齢違反じゃないのか」 辛辣ヤジも…腐らず全うした“34歳の2軍開幕投手”|球界群像 鈴木孝政#21

元中日・鈴木孝政氏【写真:山口真司】元中日・鈴木孝政氏【写真:山口真司】

鈴木孝政氏はプロ17年目の1989年に2軍開幕投手「痛快な3イニング」

 中日OB会長で野球評論家の鈴木孝政氏はプロ17年目の1989年シーズン限りで現役を引退した。「バッターはごまかせてもボールはごまかせない」。10月7日の引退発表会見ではそう口にした。若い頃は150キロ超えの快速球で打者を封じ込んだ。右肘を故障してからはストレートの緩急などで打者を打ち取るスタイルに変身して結果を出し続けた。現役ラストイヤーも3勝4敗。プロ1年目以外は毎年、勝ち星を挙げた。

 最後のシーズンは2軍開幕投手からスタートした。「甲子園で阪神戦だった。先発を言われた時は(2軍投手コーチの)稲葉(光雄)さんに『それはないでしょ、投げなきゃいけないヤツがいっぱいいるじゃないですか。こいつらを投げさせてやってくださいよ、何とかしてくださいよ』と頼んだけど『上の監督命令だから』って」。試合になると阪神ベンチからヤジられたという。

「『おい年齢違反じゃないのか』とか『コーチが投げちゃあいかんでしょ』とか冷やかされた。2軍だから丸聞こえ。でも、しょうがないと思った。ホント、投げる年齢じゃないもんね」。一切、反応することなく、ただ一生懸命、投げた。「俺の野球に対する姿勢を見せてやろうと思って投げた」という。結果は3回無失点。「ピシャッと抑えた。2回からはヤジが止まったからね。痛快な3イニング。もう最高だったね」。

 その後も2軍で投げていたが、5月に1軍に呼ばれ、星野監督のところに行った。「そしたらね、監督に『お前はもうどんなことがあっても2軍に落とさないから』って言われた。これもショックだった、こんな競争の世界で何があっても2軍に落とさないって大将に言われてショックだった。やめなきゃいけないって方向に持っていかれたような気がした」。それでも、やれることはきっちりやった。6月には2勝をマークした。だが、置かれている立場を考えると、やはりやめるしかなかった。

1989年10月のヤクルト戦…引退会見後に救援で5回投げて勝利投手に

 巨人のリーグ優勝が決まった翌日の10月7日、ヤクルト戦(ナゴヤ球場)の試合前に引退会見を行った。「発表して、試合のベンチに入った。途中からマウンドにも行ったんだよね」。12-10の5回から登板。なんと5イニングを投げて1失点で勝利投手になった。「試合前に引退会見して、試合後はヒーローインタビューだった。それまで通算123勝。1、2、3で覚えやすくてちょうどいいかと思っていたら、ひとつ勝っちゃって124勝。最後におまけ、これもプレゼントかと思ったね」。

 現役最後のマウンドは10月14日の大洋戦(ナゴヤ球場)。先発して5回6失点で敗戦投手になった。ラスト登板でも5イニング投げたが、予定は3イニングだったという。「3回までパーフェクトに抑えてしまったんだよね。それで監督に『どうしたらいいですか』って聞いたら、仙さんは困った顔をして、行けぇってなった」。だが、4回に1点、5回には一挙5点を失い、この回で降板となった。

「涙しながら投げた。最後は友達の田代(富雄内野手)だった。でっかいセンターフライ。(センターの)彦野(利勝外野手)がフェンスについて捕った。その最後のボールには田代と彦野にサインしてもらったよ」

 鈴木氏の引退試合は翌1990年4月1日、オリックスとのオープン戦(ナゴヤ球場)で行われ、トップバッターの松永浩美内野手だけに投げてサードゴロ。もちろん、それも感慨深い出来事だったが、引退会見直後の試合での5イニングと公式戦ラスト先発の5イニングも忘れられない。いずれも鈴木氏にとっては思い出のマウンドになった。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

球界群像〜鈴木孝政編〜

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