「どうするんや、来年」 日本S帯同も“蚊帳の外”…闘将の一言で察した戦力外|球界群像 鈴木孝政#20

元中日・鈴木孝政氏【写真:山口真司】元中日・鈴木孝政氏【写真:山口真司】

鈴木孝政氏は1988年の日本シリーズに帯同も、一度もベンチ入りがなかった

 現役生活の晩年はどうしても悔しい思い出の方が多くなる。中日OB会長で野球評論家の鈴木孝政氏はプロ16年目の1988年、屈辱的な気分を味わった。その年、星野仙一監督率いる中日はリーグ優勝を成し遂げ、西武との日本シリーズに臨んだ。シーズン成績が4勝3敗の鈴木氏はシリーズの登録メンバーに入ったものの出番なし。敵地・西武球場にも帯同しただけ、ベンチに1回も入らずに終わった。

 鈴木氏は「あの時は登録されたのに、上がり(ベンチ外)だったもんねぇ……」と無念そうに話した。「相手の(西武監督の)森(祇晶)さんは、このシリーズは第4の投手がカギを握るって俺を警戒していた。新聞で見た。俺としてはうれしかったね。自分でも4戦目くらいかなっていうのがあったしね」。しかし、出番さえなかった。

 ナゴヤ球場で始まった初戦の中日先発は小野和幸投手(1-5で敗戦)、2戦目は小松辰雄投手(7-3で勝利)。舞台を西武球場に移しての3戦目は山本昌広投手(3-4で敗戦)、4戦目はレギュラーシーズン6勝6敗の左腕・杉本正投手だった(0-6で敗戦)。中日は小野投手が再び先発した5戦目に延長11回6-7でサヨナラ負けして、シリーズ敗退となった。

「1戦目上がり、2戦目上がり、ゲーム見学。で、所沢に移動した。練習で(投手コーチの)池田(英俊)さんが『孝政、投げる?』っていうわけ。練習に投げるかってね。『池田さん、俺はどうなっているんですか』って聞いたよ。そしたら『わしゃ知らん。監督に聞いてくれ』。もうそれでわかった。使う気がないんだってね。ずっとこの扱いか、はぁ、そうだったのかってね」

「もう1年」鈴木孝政氏の言葉に星野監督は「来年はお前の好きにしていい」

 第5戦にサヨナラ負けして、敗退が決まった時、鈴木氏は宿舎の部屋にいた。悔しかったし、むなしかった。名古屋への帰り。「新幹線のビュッフェでビールを飲んでいたら、監督が呼んでいると言われた。で、隣に座った。でも仙さんはなかなかしゃべり出さなかった。名古屋に着いちゃうよって思った時に『どうするんや、来年』とボソッと言われた。はっきり言わないけど、優勝を花道にやめたらどうだってこと。そういうことだと思った」。

 星野監督の問いかけに鈴木氏は即答した。「もう1年やらせてもらえませんかって言った」。闘将からは「よし、わかった。来年はお前の好きにしていい」と言われたそうだ。「ショックだった。めちゃくちゃショックだった。大将にお前の好きなようにしていいと言われてみなさいよ。それは戦力じゃないって受け取れるわけだからね」。そんな形で現役続行が決まった。

 翌1989年、鈴木氏は1軍のオーストラリア・ゴールドコースト1次キャンプ、沖縄・石川2次キャンプのメンバーに選ばれた。「春のキャンプは17回目だったけど、それまでの16回は俺が行かなくて誰が行くんだってくらいの気持ちで行った。でも、この時のキャンプは連れていってもらえるんだって思った。ああ駄目だと思った。そんな気持ちでキャンプに行っちゃ駄目だって思った」。

 沖縄では石川球場から宿舎までの6キロを帰りは毎日走って帰ったという。「自分の中でやったって手応えをつかみたくてね。変な悔いを残さないように。大汗かいてやりましたよ。でも、肝心の開幕に丸印がついてなかったけどね」。厳しい立場であることを承知しながら、やれることに全力で取り組んだ最後のキャンプだった。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

球界群像〜鈴木孝政編〜

突然の“首脳陣一掃”で戻ってきた落合博満 監督就任は幻に…低迷する中日への思い|球界群像 鈴木孝政#23「俺、いらないのかな」落合竜を1年で去ったワケ 「入院しろ」拒否して見せた“意地”|球界群像 鈴木孝政#22「年齢違反じゃないのか」 辛辣ヤジも…腐らず全うした“34歳の2軍開幕投手”|球界群像 鈴木孝政#21快投中の“強制降板”にブチ切れ「何で」 後輩の“踏み台”に…屈辱だった同情の賞金|球界群像 鈴木孝政#19勝利投手の賞金を超えた罰金 前代未聞の珍プレー…闘将が激怒した“とぼとぼ走り”|球界群像 鈴木孝政#18“決めごと”ばかりの生活も「女房を楽に」 神懸かりな1年を支えた妻の献身|球界群像 鈴木孝政#17マスコミが「誰ひとり、信用しない」 思わずポロリも…予想外だった投手の“告白”|球界群像 鈴木孝政#16屋台で飲み、就寝直前に「明日行くぞ」 連投お構いなし…呆然とした“予期せぬ通告”|球界群像 鈴木孝政#15悲劇からの変身に中畑清が文句「抜いたなぁ!」 たった88球の完封呼んだ“粘着質”の助言|球界群像 鈴木孝政#14“抑え失格”の烙印押された逆転満塁弾 正念場で下された仰天指令「勇気がいったよ」|球界群像 鈴木孝政#13

RECOMMEND

CATEGORY