【特集・イチロー4000本安打の価値】第1回 シアトルマリナーズ・川崎宗則編
打者としての偉大さは、敵だからこそ分かったことも
達成直後、イチローが二塁に進むと、すかさず川崎が近寄った。笑顔でのコミュニケーションは、いかにも師弟らしいものだった。
「僕は『本当にありがとうございます』と(言った)。鳥肌が立って、『すごく幸せです』とイチローさんに言いました。『おめでとうございます』じゃないですね。イチローさんを追っかけてきて、こっちの野球の素晴らしさというか、いろんなことを経験しているし、日本では考えなかったようなことも考えるようになった。英語をしゃべるようになったり、スパニッシュをしゃべるようになったり、そういう野球を教われたのはイチローさんを追いかけてきたからなんでね。感謝したい。この4000本という最高のね…、本当に一日しかないわけだから。そういうところに一緒にグラウンドに立っていたことを僕は息子に自慢します。『父ちゃんはイチローさんの4000本のとき、セカンドを守っていたんだぞ』って息子に言いたいと思います」
何とも誇らしげな表情で、川崎は話し続けた。
今季は敵として対戦することになり、改めてその偉大さに気付いた。一番弟子から見た、イチローの凄さとは何なのだろうか。
「守りであれだけプレッシャーを掛けられる選手はなかなかいないですよね。あそこに行ったら三塁打が二塁打にしかならない。ワンヒットで帰れるのに帰れない。ここは捕れないだろうという打球を捕る。で、チームに流れがグッと行く。そういうプレーっていうのは、守備側からのプレッシャーというのは、凄いんですよ。一緒にプレーしているときは心強かったのが、相手として見たらとんでもない選手だなと。僕が監督だったら顔も見たくない」
もちろん、打者としての偉大さも敵だから分かったことがある。
「プレッシャーがあるからね。あのスピードでしょ。僕が(ショートやセカンドで)ボールを取った時点で、一塁ベースのタイミングが明らかに違うんですよ。足が速くなっているんですよ、ここ最近。またスピードが上がっているんですよ。どこまで成長するんだ、と。たぶん、70歳くらいまでいくんじゃないかと思うので、僕は80歳まで成長していかないと(笑)」
どこまでもイチローの背中を追い続ける男は、4000本安打を見届けたことを糧に、次のステップに進んでいくことだろう。
【了】
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フルカウント編集部●文 text by Full-Count