「WHIP」上位のバリントンはなぜ大きく勝ち越せないのか?

WHIPという日本ではあまり馴染みのない指標

セ・リーグ
1位前田健太(広島)     14勝5敗 防御率1.93
2位能見篤史(阪神)     10勝7敗 防御率2.65
3位杉内俊哉(巨人)     11勝5敗 防御率3.12
4位バリントン(広島)    10勝9敗 防御率3.37
5位小川泰弘(ヤクルト)   14勝4敗 防御率2.80

パ・リーグ
1位田中将大(楽天)     21勝0敗 防御率1.23
2位金子千尋(オリックス)  12勝8敗 防御率2.01
3位岸 孝之(西武)     10勝5敗 防御率3.09
4位攝津 正(ソフトバンク) 15勝6敗 防御率2.43
5位則本昂大(楽天)     14勝7敗 防御率3.42

 上記の表は2013年9月20日現在、「WHIP」と呼ばれる成績の両リーグベスト5傑である。開幕から21連勝の楽天・田中を筆頭に力のある10人のピッチャーが名前を連ねている。

 日本ではあまり馴染みのないこの「WHIP」。Walks plus Hits per Inning Pitchedの頭文字を取ったもので、(被安打+与四球)÷投球回数の計算式で出される数字のこと。つまり、1イニングで何人の走者を出したかを表す指標であり、この数値が低いほど良い投手とされる。MLBでは日本でいう防御率や勝率のように公式な記録として認定され、大きな査定対象になっている。

 日本でも松坂大輔投手(メッツ)が06年オフにポスティングシステムでボストン・レッドソックスに移籍して以降、よく耳にするようになった。今では黒田博樹投手(ヤンキース)、岩隈久志投手(マリナーズ)、ダルビッシュ有投手(レンジャーズ)ら先発投手が評価されるたび、この数字がクローズアップされている。MLBでは先発投手の成績から切り離せないものになっているのだ。

 一般的に1.0未満は超トップクラス。1.2以内ならエース級とされる。上記の10投手はすべて1.2以内。田中は0.94と12球団トップで、防御率も1.23と申し分ない。だが、WHIPが好投手の指針となりつつある中でその数値と成績が比例しにくい投手がいる。広島のブライアン・バリントン投手だ。

 WHIP上位には大きく勝ち越している投手がそろうが、10人の中で最も貯金数が少ないのがこのアメリカ人投手。20日現在で貯金1個、防御率も3点台と低調な数字だ。今でこそ所属の広島がCSへ向けて勢いがついてきたため、勝ち星も伸びてきたが、一時は大きく負け越していた時期も長かった。

バリントンの勝ち星が伸びない理由

 ケガをしないタフな肉体の持ち主であるバリントンは一昨年に200投球回数を投げ、昨年も160回以上に登板。試合を作ることに長け、ローテに欠かせない存在である彼は、しかし、悲運の外国人投手として認知されている。

 昨年はWHIP1.20ながらなんと7勝14敗と大きく負け越し。それでもローテーションを離れることなくまわれたのは、内容のある投球をしていたからだ。打線の援護がなくても、バリントンは「やっている野球はいい試合をしているんだ。だから、辛抱強く投げて、いつか勝ってくれればいい」と何試合も我慢の投球を続けた。そんな姿に、ファンも同情するしかなかった。

 しかし、彼のWHIPと勝ち星が比例しにくい理由は、味方の援護がないというだけではない。所属チームの事情とバリントン自身の投球術も関係している。

 20日時点で、広島はリーグダントツの失策数100を記録。WHIPでは、この失策で出した走者が、計算式にある1イニングに出した走者数に換算されない。広島はリーグ最多失策の19個の堂林翔太がサード(現在は離脱中)、17個でリーグ2位の菊池涼介がセカンドなどを守っており、彼らの失策から失点し、敗れ去るケースもある。石井守備走塁コーチは「堂林はうまくなっている」とかばうが、失策により出ている走者の数がWHIPと勝敗の関係性を歪める遠因となっているのは間違いないだろう。

 ただ、それならば、1位の前田も同じ広島なのだから条件は同じだという人もいるかもしれない。実は前田とバリントン両投手の違いは死球の数にある。

 WHIPでは四球は出塁としてカウントされるが、死球は投手のみの責任ではない(つまり、ボールを避けるか避けないかは打者の責任でもある)という理由から、カウントされない(失策が数に入らないのも同様の理由である)。すなわち、死球でランナーを出してもWHIPに影響は出ないが、それで失点すれば防御率は悪くなり、負けの数も自然と増えていってしまう。そして、バリントンはこの死球が多い投球スタイルなのだ。

 以前、メジャー全米ドラフト1位で入団したほどの右腕は、カットボールやツーシームといった動く速球系のボールを操るのが特徴で、打者の内角をえぐっていく。少なくとも、前田のように四隅にコントロールして勝負する投手ではない。11年5月には巨人・小笠原道大の右ふくらはぎに死球を与え、1か月、戦線を離脱させたこともあるほどだ。荒れ球で打ち取る投球では死球が増えるのも無理はない。今季はダントツでリーグトップの14個の死球数。前田はたった2個だ。

 広島は失策王・堂林をチームの顔に育てようと、1軍、しかもスタメンから外すつもりはない。バリントンから攻撃的なスタイルがなくなることもない。WHIPが良いのに、なぜバリントンが勝てないのか。それはバリントンが広島にいる限り、永遠についてくるテーマなのかもしれない。

【了】

フルカウント編集部●文 text by Full-Count

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