ダルビッシュも敬意を表す、色褪せることない野茂英雄の功績
数字から見る野茂英雄のすごさ
三振以外の数字を見ても、野茂氏のすごさは伝わってくる。当時、メジャー史上4人しか達成していなかった両リーグでのノーヒットノーラン(1996、2001年。しかも1度目は打者天国として知られるクアーズ・フィールドで達成)は、改めて取り上げる必要もないほど、あまりにも有名で、偉大な記録だ。2001年には、違う試合で7者連続を含む14三振を奪い、1安打完封するという準完全試合も見せている。ただ、ここで注目したいのは、2年目の1996年に残した228回1/3というイニング数。これは、今季に当てはめればメジャー4位の長さになる。1年間、ローテーションを守り抜くことが先発投手の最大の仕事とされる米国で、いかに安定した投球を続けていたかが分かる。
こういった実績を見ると、現在の日本人投手はまだまだ足元にも及ばないと言える。ただ、野茂氏本人は後輩の活躍に敬意を表している。今年8月にドジャースタジアムで始球式を行い、トルネード投法で大歓声を浴びたときには、ダルビッシュらの活躍について聞かれて笑みをこぼした。そして、その時点で自身の年間三振記録が抜かれそうだったことについても、大歓迎といった雰囲気で話した。
「野球は実力社会なので、仕方ないというより楽しみに見ています。僕よりも彼の方がレベルが高い。毎年いい結果を出して、偉大な選手になってもらいたいです」
ダルビッシュに限らず、自分の背中を追って海を渡ってきた投手が、メジャーリーグで確かな足跡を残していく。このことが、うれしくないはずがない。飾らない人柄も、いまだにメジャーで尊敬を集める理由の1つだろう。
野茂氏の米国野球殿堂入りは厳しいとの見方が強い。ただ、その功績が否定されるわけではない。メジャーの球場に行くと、あらゆるところに日本語での案内が出ている。そして、誰もが当たり前のように日本人を迎え入れてくれる。プロ野球で実績を残した選手がメジャーに挑戦すれば、まずは一流として認められた状態から野球を始められる。松坂大輔やダルビッシュにポスティングで莫大な落札額がつくことも、野茂氏がいなければなかっただろう。
今年、黒人初のメジャーリーガーであるジャッキー・ロビンソンの半生を描いた「42」という映画が公開され、その功績があらためて讃えられている。白人以外にも開かれた道を日本人として初めて通ったのは、1964年にジャイアンツでデビューした村上雅則氏。そして、日本人にとっては、まだ道と呼べないほど荒れ果てていたところを切り開き、踏み固めていったのが、野茂氏だった。
メジャー通算123勝は、日本人2位の黒田博樹(68勝)をいまだに大きく引き離す。ダルビッシュ、岩隈久志、そして来季のメジャー挑戦が確実視される田中将大が、パイオニアを超える日は来るのだろうか。日本人投手はいつまでも野茂氏の背中を追い続け、何かの記録に迫る度に、その偉大さを実感することになるだろう。
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フルカウント編集部●文 text by Full-Count