サブマリンのメジャー挑戦 渡辺俊介はアメリカで旋風を巻き起こせるか
日本を代表するサブマリンが海を渡る
ロッテの渡辺俊介投手(37)が、夢を追いかけ、メジャーリーグ・レッドソックスとマイナー契約を結んだ。12日に渡米し、15日に帰国。ボストンの街や3Aのポータケットなどを見てきた男は「ゴールではなく、結果を出したいですね」と憧れの舞台へ思いを馳せた。
米球界ではあまりいないアンダースローは希少価値が高い。アスレチックスなどで活躍したブラッド・ジーグラー投手が有名ではあるが、各チームに1人いるわけではない。この投げ方はメジャーのような傾斜の高いマウンドでは手がついてしまう可能性も指摘される。
何より、欧米人は日本人に比べて体が硬いと言われている。かつての南海のエース杉浦忠氏や阪急の山田久志氏をはじめ、日本の歴代のサブマリンたちは柔軟性に富んでいた。渡辺も非常に体が柔らかいことで有名で、アンダースローに適している体だった。
下から浮き上がるボールは球速よりも早く感じる。ロッテの本拠地・QVCマリンフィールドに吹く風も計算にいれて、変化をつけていた。米国も、日本に比べてドーム球場が少なく、海沿い、風の強い地域にスタジアムが建つ。その環境が渡辺の挑戦を後押ししてくれる可能性も十分ある。
アンダースローは、膝や下半身の強さが重要となる。振りかぶってから、手を下までくぐらせて、下から上へ腕を振る。ワインドアップモーションの投手よりも、ボールを持っている時間は長く、フォームの溜めが大切となる。右投手の場合、ボールは常に右足の脇にある。それだけ、溜めを長くしないとボールに力が入らない。渡辺もそのフォームを実現するだけの強い下半身を手に入れていた。
渡辺家には、若き日の俊介青年がプロで活躍するベースを作ることができた、ある逸話がある。栃木県の実家は建築業を営んでおり、学生時代から手伝いをしていた。作業では、重い木材を運ぶこともしばしばあったという。何度も何度も、木材を担いで運んだことで下半身、特に膝が強くなったと言われている。渡辺自身もその効果を実感しており、投球フォームの安定性とも無縁ではなさそうだ。
最初は投手だったベーブ・ルースがアンダースロー投手だったように、アメリカでは早い時期からアンダースローの文化はあったが、難しい投球フォームのために定着はしなかった。今でもその数は少ない。一方の日本の野球はアンダースローが立派な技術の一つとして確立した。そして、ついに日本を代表するサブマリンが海を渡る。アメリカで発祥し、日本で成熟させた技法で、渡辺俊介が旋風を巻き起こすかもしれない。
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フルカウント編集部●文 text by Full-Count