松井秀喜氏が公の場で英語を使わなかった理由
「僕には信頼を置く通訳がいる」
ヤンキースに所属した2009年、フィリーズとのワールドシリーズでMVPを獲得した時、松井氏はカーロン通訳とお立ち台に立った。インタビュアーから「今オフにフリーエージェントになるが、もう1度、ヤンキースでチャンピオンの一員として戦いたいか?」という質問に、「もちろん、そうなればいいと思うし、僕はニューヨークが好きだし、ヤンキースが好きだし、チームメートが好き。ここのファンが大好きです」と日本語で応え、場内の喝采を浴びた。
気持ちのこもった言葉であるが、英語にすることも容易だったはずだ。しかし、松井氏は日本語で通訳を介した。カーロン氏が英語で話すと、スタジアムのファンから大歓声が上がった。
その後、松井氏は英語でスピーチをしなかったことについて、理由を説明したことがあった。
「僕には信頼を置く通訳がいるのだから」
自分が簡単とはいえ、英語で話をしてしまったら、通訳の仕事がなくなってしまう。パートナーの存在をずっと尊重していたのだ。
その年、ワールドシリーズMVPの称号は一人にしか与えらない。「MVP=世界一のプレーヤー」である。日本人のワールドシリーズMVPは今後、出てこないのではないかと言われているほどだ。つまり、松井氏は自分が唯一無二の存在であることを理解した上で、通訳を尊重した。言い換えれば、通訳も「世界一の通訳」になってほしかったのだ。
今後、日本人選手の通訳としてワールドシリーズMVPを経験できる人間はいないのかもしれない。松井氏の通訳にとっても、ワールドシリーズのお立ち台は晴れの舞台だったのだ。松井氏はそれを理解した上で「信頼を置く通訳がいるのだから」という言葉につながったのだろう。マー君をはじめとする日本人選手にも、この2人のような関係を築いて、メジャーリーグという荒波を乗り越えていってもらいたい。
【了】
フルカウント編集部●文 text by Full-Count