延長15回に及ぶ熱戦の裏側 明徳義塾・馬淵史郎監督が「勝てる」と思った瞬間とは

甲子園を知り尽くした2人の駆け引き

 高校野球の規定では、延長15回に入ると、引き分け再試合となり、別の日にやり直すことになっている。2006年春には早稲田実業(東京)と関西(岡山)、同年夏には決勝戦で早稲田実業と駒大苫小牧(北海道)が再試合となった。この日も同様に、延長15回表、智弁和歌山が無得点に終わった瞬間に、明徳義塾の負けがなくなった。

「引き分け再試合は覚悟した。でも、負けがなくなって気分的に楽になったわ」

 そう振り返る馬淵監督はこの瞬間、いけると思ったという。なぜなら、明徳義塾に負けがなくなると同時に、智弁和歌山に勝ちがなくなったからだ。明徳ナインは気持ちが楽になり、智弁和歌山ナインには重圧が圧し掛かった。

 そして――。途中から登板した東妻はこれまでの試合の流れを壊してはいけないと、最終回に力が入った。コントロールが甘くなり、ヒットと四球で1アウト満塁。最後は捕手の前でワンバウンドしてしまう暴投という結末になってしまった。明徳の2点目を生み出していたスクイズもこの時、警戒していたのだろう。

 馬淵監督は「あそこでスクイズはない。満塁だからね。押し出しはあるかもしれないと思っていたけど。ラッキーだったね」と言う。あの手のこの手の攻防によって最後は心理的優位に立っていた明徳義塾に軍配が上がった。

 甲子園を知り尽くした2人の駆け引きには、他にも勝負を分けたポイントがいくつも見られ、夏の再戦を期待したいほど見応えのある試合となった。敗れた智弁和歌山のこれからの奮起も楽しみであり、初戦で姿を消すことになった高嶋監督がこのまま終わるとも思えない。甲子園通算勝利数が合わせて105勝の名将対決は僅かの差で馬淵監督率いる明徳義塾が競り勝ったが、両校はきっとまた熱いドラマを見せてくれるに違いない。

【了】

フルカウント編集部●文 text by Full-Count

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