得失点差に見る「混セ」到来の予兆 巨人史上2番目に“きわどかった”今季の優勝
大きな得失点差が実現する黄金期、実力伯仲の「混セ」時代は来るのか
巨人のV9時代(1965年~1973年)、西武黄金期(1985年~1994年)、野村ID野球のヤクルト(1990年~1998年)の、各チームが優勝したシーズンの得失点差を図表にまとめた。
ほとんどが100点付近の得失点差をつくっていて、50点を割っているのは野村克也監督がヤクルトを率いて初めて優勝した年だけだ。
川上哲治、森祇晶、野村克也というと手堅い野球、勝負強い野球をする印象が強かった。そんな監督であっても、優勝するときには毎年しっかりと得失点差をつくっていたことになる。チームの競争力と得失点差の余裕が強く関係していることは、こうした数字からもうかがえるのではないだろうか。
得失点差を使って過去の黄金時代と今年の巨人の優勝を比較したのは、「原巨人はV9時代に及ばない」「西武のほうが強かった」という指摘をしたいからではない。ここで目を向けるべきなのは、7ゲーム差を引き離されて巨人の3連覇を許したとはいえ、実際にはセの5チームが巨人との戦力差をかなり詰めていたという点だ。
得失点差が伸びなかった遠因とも考えられるが、今年の巨人の戦いぶりからうかがえたのは若手の育成サイクルの若干の停滞だ。内海哲也、山口鉄也、坂本勇人、長野久義など、次々とチームに競争力を与えられる選手が登場し続けた時期に比べると、有望株選手の層は薄くなっている。
そういう局面を迎えた巨人に対し他球団がしっかり詰め寄れたことは、ここ数年のチームづくりで他球団が巨人に負けていなかったことを意味する。
勢いを維持するには、このオフが重要だ。
優勝の内容に巨人が危機感を感じ補強に本腰を入れるのか。広島、阪神はストーブリーグでも食らいついていけるのか。中日の落合博満GM(ゼネラルマネジャー)、打てる手はしっかり打つDeNAのフロントの動きも興味深い。ヤクルトは山田哲人の登場でチームづくりの展望が開けたことだろう。フロントの動き次第で来年以降のセ・リーグのパワーバランスは変わっていく可能性がある。
「混セ」時代か、巨人の黄金時代か。このオフはその分岐点となりそうだ。
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DELTA・大南淳・秋山健一郎●文 text by DELTA OMINAMI,J. AKIYAMA,K.
DELTA プロフィール
DELTA http://www.deltagraphs.co.jp/
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える セイバーメトリクス・リポート1~3』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『Delta’s Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。最新刊『セイバーメトリクス・リポート3』が4月5日に発売。