米国内で評価を高めている日本人投手 現地関係者が証言する4つの強み
メジャーでは慎重過ぎる投球がマイナスに働くことも
「高めにボールを浮かせることを避け、両サイドのコーナーを付くことができる前田の速球の制球力は印象的だった」
そんな記述を見れば、“ブリーチャーズレポート”の記者も前田の能力に感心したことは容易に見て取れる。この前田に限らず、日本人投手に関しては前述した4つのアドバンテージをハイレベルで併せ持っていることが成功のバロメーターになるのではないか。
一方、前田に関してもう少し掘り下げると、気になる要素、不安材料としては以下の要素が挙げられていた。
「真っ直ぐの速度がそれほどでもないがゆえに、速球中心の組み立てにするのは危険。それゆえに(シリーズ第1戦の先発機会では)全71球のうち真っ直ぐは29球と、その割合は全体の40.8%に過ぎなかった。だからこそ、両コーナーを上手く使う投球が必要になる」
いつ渡米が実現するかは未定だが、アメリカでの前田は恐らくは岩隈久志のように緩急と制球力を生かした投球が指標となるに違いない。ただ、少なくとも現時点では岩隈のレベルとは考えられておらず、それゆえに“3~4番手の先発投手”という評価が多大半。そして、球威のなさが災いし、慎重過ぎる投球になってしまった場合には、球数が増えてしまうことに繋がりかねない。
かつて松坂大輔のレッドソックス時代には、例え有利なカウントでも丁寧にコーナーを付く投球が特徴として語られたことがあった。いわゆる「ニブル」である。その丹念さは長所にも成り得るが、先発は100球前後で交代するのは通例のメジャーにおいて、慎重過ぎるピッチングはマイナスになる。球数が必要以上に増えてしまえば、アメリカでは先発投手の重要な仕事を考えられている“安定してイニング数を稼ぐこと”が必然的に果たせなくなるからである。
近年はダルビッシュ有、黒田博樹、田中将大らがハイレベルの実績を積み重ね、岩隈や上原浩治のように“ニブル”とはかけ離れたテンポの良い投球で魅せる日本人投手たちも出て来ている。その後に続く候補と目される前田、さらには金子千尋(オリックス)、則本といった投手たちは、日本人の長所を生かし、いつかメジャーの舞台でも成功することになるのかどうか。それともパワーの差に苦しみ、球威不足が弱点となってしまうのか。
繰り返すが、アメリカ代表が本調子ではなかった日米野球での投球が参考になるのかどうかは微妙ではある。それでもこの舞台での日本人投手たちの好投を見て、将来をより興味深く感じるようになったファンは多いことだろう。
※注「nibble(ニブル) もともと小動物がエサを少しずつかじるという意味。ベースボールでは「例え有利なカウントでも丁寧にコーナーを付く」といった意味で、どちらかといえば否定的な表現として使われる。
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杉浦大介●文 text by Daisuke Sugiura
東京都出身。大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。「スラッガー」「ダンクシュート」「アメリカンフットボール・マガジン」「ボクシングマガジン」「日本経済新聞・電子版」などに寄稿。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。