レスター加入で期待感に溢れるカブス 「ヤギの呪い」はついに解けるか
「2015年もプレーオフ進出だけではなく、世界一を狙える可能性は十分にある」
新背番号「34」のユニフォームに袖を通したレスターは「長らく世界一から遠ざかっているカブスで優勝し、本当に特別で想像を超えるような出来事を起こしたい」と力強く宣言した。
会見場でレスターの脇を固めるエプスタイン球団社長とホイヤーGMは、レッドソックス時代からの顔なじみ。まだ高校卒業後まもない18歳の少年が球界屈指の名左腕となるまでの時間を共に過ごしてきた。レッドソックスが「バンビーノの呪い」を破り、86年ぶりのワールドシリーズ優勝を勝ち取った時、エプスタイン社長とホイヤーGMは首脳陣として一躍時の人となったが、まだマイナーリーガーだったレスターは雰囲気を味わい損ねた。その後、2度世界一を経験しながらも、2004年の「特別感」を味わえなかったことが心残りだったという。
そこへきて、106年も呪いに掛かったままのカブスの登場だ。「呪い破り」の異名をとるエプスタイン社長とホイヤーGMは、3年前にシカゴに先乗りし、チーム立て直しの大計画を着々と実行してきた。就任当時は暗く先の見えない洞窟の中に放り込まれた感じだったが、若手有望株が揃ってメジャー昇格を果たした今季後半は、闇に幾筋もの光が届き、明るい夜明けを感じさせるまでに再建。救世主を迎える準備を整えた。
スポーツ選手ならば誰でも、少なからず山師のように勝負好きな一面を持つものだ。ピッチャーとして脂の乗った30歳。すでに頂点を経験したことのあるレスターが、106年の呪い破りという冒険に心動かされたとしても不思議はないだろう。実際、提示額が最高値ではなかったカブス(それでも高額だが)を選んだのは、自分のキャリアにおける新たな目標作りの意味も大きかったのかもしれない。
記者会見の中で「2年連続で地区最下位に沈んだカブスだが、近い将来世界一になれる可能性を見つけたから契約したのか」と聞かれたレスターは、こう言った。
「近い将来というか、2015年もプレーオフ進出だけではなく、世界一を狙える可能性は十分にあると思う。若手選手の起用には定評のあるマドン監督を招聘した点に、何よりも球団の本気度を感じた。自分は何かを言ってチームの士気を盛り立てるタイプじゃないし、このチームは生え抜きのカストロや主砲リゾのチームだと思っている。彼らの方が自分以上に、シカゴの街に優勝をもたらしたいと思っているだろう。だからこそ、自分は自分のやるべきことを果たすだけ。その過程で若手が何かを感じてくれればうれしいし、チームとして共に戦っていけると思う」
かつてレンジャーズではノーラン・ライアンが、カブスではケリー・ウッドが背負った偉大なる「34」をつけたレスターは、カブスの救世主として歴史に名を残す存在となるのか。この人なら、やってのけそうな気がする。
※編集部注「ヤギの呪い」……1945年のワールドシリーズでカブスはタイガースと対戦。2勝1敗で迎えた本拠地リグレー・フィールドでの第4戦で、ある男性ファンがいつものようにヤギを連れて観戦に訪れた。だが、この日に限って入場を断られて激怒。「2度とリグレー・フィールドでワールドシリーズが開催されることはないだろう」と言って去ったとされている。同シリーズは3連敗で破れると、それ以降は2003年の「バートマン事件」などもあり、カブスは1度もワールドシリーズに出場していない。
【了】
佐藤直子●文 text by Naoko Sato
群馬県出身。横浜国立大学教育学部卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーとなり渡米。以来、メジャーリーグを中心に取材活動を続ける。2006年から日刊スポーツ通信員。その他、趣味がこうじてプロレス関連の翻訳にも携わる。翻訳書に「リック・フレアー自伝 トゥー・ビー・ザ・マン」、「ストーンコールド・トゥルース」(ともにエンターブレイン)などがある。