主力大量放出で注目を浴びる“ミスター・マネーボール”の手腕

売り時、買い時を逃さない手腕

 マネーボールと言えば、年俸総額を低く抑えて勝てるチームを作ることを思い浮かべるだろう。今オフの一連のトレードも、放出した選手たちの年俸という観点から見ると、節約した年俸総額は3000万ドルを下らないはずだ。だが、ビーンGMは地元紙サンフランシスコ・クロニクルで次のように話している。

「今オフの動きは年俸総額をカットすることが目的じゃない。むしろ選手をトレードした副産物に過ぎない。第一の目的は若手選手の層を厚くすること。その結果として、年俸総額が下がっただけだ。この差額を将来に向けて、つまり獲得した若手選手に投資することが理想。だが、同時に来季のこともあきらめてはいない」

 ここで振り返りたいのが、2011年のオフのことだ。今回は野手を大放出したビーンGMだが、この時は絶妙なタイミングで4投手をトレードに出した。その内容を簡単に振り返ってみよう。

●ナショナルズ 先発ゴンザレス+1選手を放出→捕手ノリス、先発ミローン+2選手を獲得
●レッドソックス 抑えベイリー+1選手を放出→外野レディック、先発アルカンタラ+1選手を獲得
●ダイヤモンドバックス 先発ケーヒル、中継ぎブレズローを放出→先発パーカー、中継ぎクック+1選手を獲得

 手放した4投手のうちゴンザレスはナショナルズの主力となり、ブレズローは2013年に次なる移籍先のレッドソックスで活躍したが、ベイリーとケーヒルは怪我に悩まされて期待された働きをできないままとなった。言ってみれば、アスレチックスは各投手の値打ちが最高の時を逃さずに「売る」ことに成功したわけだ。そして代わりに獲得した選手たちは、2012年から3年連続でプレーオフ進出に大きく貢献する存在に成長。こちらも値打ちが上昇する前の「買い」時を逃さなかったというわけだ。

 2011年の例を見ても、今オフのアスレチックスの動きはビーンGMの言葉どおり、来季の優勝を見据えると同時に、少し先の未来も視野に入れた動きだろう。もちろん、まだ補強が終わったわけではない。今後もさらなる動きが期待される中で、トレードの副産物として来季予算に余裕が生まれた今、フリーエージェント市場に残る高額な選手に触手を伸ばす可能性も生まれてきた。ビーンGMの次なる動きが気になるところだが、確実に言えることは、来季もアスレチックスを見くびらない方がいい。

【了】

佐藤直子●文 text by Naoko Sato

群馬県出身。横浜国立大学教育学部卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーとなり渡米。以来、メジャーリーグを中心に取材活動を続ける。2006年から日刊スポーツ通信員。その他、趣味がこうじてプロレス関連の翻訳にも携わる。翻訳書に「リック・フレアー自伝 トゥー・ビー・ザ・マン」、「ストーンコールド・トゥルース」(ともにエンターブレイン)などがある。

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