【小島啓民の目】広岡達朗氏が打ち崩した「基本」の概念 練習で挑戦&失敗することの重要性

練習はあくまで練習であって実戦ではない、大いに失敗しろ

 正確性も非常に大事です。しかし、日本人は100点を取らなければ正確ではないと思ってしまう国民性もあり、また、それに固執してしまう傾向にあります。

 これまで世界大会を通じて多くの国の野球を見る機会がありましたが、本当に日本人はこの精神が強いですね。一つのことにこだわりすぎるあまり、先に進めない選手が多くいます。9割できればほぼ完成、8割でほぼ合格レベルぐらいの気持ちで、「次の技術、次の技術」と貪欲に技術の上積みをした方が結果的には総合力のある選手になります。

 そのためには、失敗する勇気を持たなければ行けません。「ミスしたら監督に叱られる」などと萎縮していてはダメです。「ミスしたら叱られるのは当然」と思い、失敗したら「次はもっと上手くやってやろう」程度の気構えで取り組めばいいのではないでしょうか。そうは言っても、「正確性」と「リスクに挑む」という相反することを練習で追わなければならないため、選手は非常に苦しむわけですが。

 それでも、失敗するからこそ、次なる闘志が湧いてきます。失敗するからこそ、失敗する時の感覚を知ることができます。失敗するからこそ、失敗しないような防御策が見つかります。だからこそ、チャレンジングな姿勢で取り組みましょう。

 野球を含めたスポーツは一瞬の判断力が要求されます。「少し時間を貰って、明日回答します」など日常によくある悠長な判断とは違います。この判断は全て、成功した経験と失敗した経験に基づいて行われているものです。

 したがって大いに失敗した方が経験値も多くなるわけで、プレーを選択する上での判断精度の向上にもつながっていきます。練習はあくまで練習にすぎず、実戦ではありません。難しいことに挑戦をし、大いに失敗を繰り返すべきです。

 自分を本気で追い込めるストイックな人間は、それ程多いものではありません。

 では、どうすればいいか。

 まずは、やらされる練習にどれだけ主体的に関わっていくかがスタートでしょう。技術習得の過程では、誰かに頼っていた方が結果的には早道という時期があります。したがって、いかに指導者と上手く関わっていくかということが課題ともなります。

 更に言うと、良い指導者にめぐり合うかが大きなウエイトを占めることになります。逆に言えば、それだけ指導者は責任があるということですが。

 しかしながら、高いレベル(プロ野球など)に行けば行くほど、最終的には自己管理が勝負の分かれ目になります。日常から自分への挑戦と思い、自分で自分を管理しながら練習していく。なかなか続かなくとも、努めて行っていく必要はあります。自己管理は決して容易いことではありませんが、そこに覚悟があれば、難しいことでもありません。

【了】

小島啓民 プロフィール

1964年3月3日生まれ。長崎県出身。長崎県立諫早高で三塁手として甲子園に出場。早大に進学し、社会人野球の名門・三菱重工長崎でプレー。1991年、都市対抗野球では4番打者として準優勝に貢献し、久慈賞受賞、社会人野球ベストナインに。1992年バルセロナ五輪に出場し、銅メダルを獲得。1995年~2000年まで三菱重工長崎で監督。1999年の都市対抗野球では準優勝。日本代表チームのコーチも歴任。2000年から1年間、JOC在外研修員としてサンディエゴパドレス1Aコーチとして、コーチングを学ぶ。2010年広州アジア大会では監督で銅メダル、2013年東アジア大会では金メダル。侍ジャパンの台湾遠征時もバルセロナ五輪でチームメートだった小久保監督をヘッドコーチとして支えた。2014年韓国で開催されたアジア大会でも2大会連続で銅メダル。プロ・アマ混成の第1回21Uワールドカップでも侍ジャパンのヘッドコーチで準優勝。公式ブログ「BASEBALL PLUS(http://baseballplus.blogspot.jp/)」も野球関係者の間では人気となっている。

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