果たして手書き謝罪文の効果は? Aロッドの巧妙な「戦略」に欠けているもの
聞こえてこない仲間への謝罪や感謝の言葉
バイオジェネシスを巡る一連の騒動が起きた時、シーズン真っ只中にもかかわらず、世間の注目は、日々行われている試合そのものよりもスキャンダルの方に向けられた。世間一般に「やっぱり野球選手は薬を使っているんだ」という印象を与え、禁止薬物を使用しないクリーンな選手が大半にもかかわらず、仲間に少なからず連帯責任を負わせる形にもなっている。だが、仲間たちに対しては「迷惑を掛けてすまなかった」のひと言がなかった。表面的にはすべてを完璧に成し遂げているように見えて、実は大切な何かが抜け落ちている。もしかしたら、それがまたアレックス・ロドリゲスらしさを象徴しているのかもしれない。
ロドリゲスという人物は、実に不思議な人物で、よくも悪くも常にスポットライトのど真ん中にいる。試合で活躍しようが、私生活で問題を起こそうが、言い方はおかしいかもしれないが、なぜか絵になる。おそらく、自分でもそれを知っている。昨年末、現在は代理人として活躍する元同僚ゲイリー・シェフィールド氏のロドリゲス評が、ニューヨーク・デイリーニューズ紙に掲載されていた。実に的を射た表現なので、ご紹介しておこう。
「アレックスと一緒にプレーした経験から言わせてもらうと、かなりの人がアレックスに嫉妬している。対戦相手にもなったしチームメイトにもなったけれど、あいつの姿を見つけると何をするにつけても、他の選手から敵意や悪意が沸き上がってくるのが分かる。とにかく好きになれないんだろう。そんなこともあって他人以上に苦労するんだから、チームメイトとしては、アレックスの味方になって支えてあげる必要があったんだ」
こういった仲間の思いを、ロドリゲスがしっかりと汲み取れていたのかは、興味深い。もしかしたら、個人的に謝罪や感謝の言葉を伝えているのかもしれないが、もし何もなかったら寂しい限りだ。
ヤンキースの野手がキャンプ地タンパに集合する2月25日。チームメイトはどんな思いでロドリゲスを迎えるのだろうか。謝罪文は発表しても、やはりスポットライトからは逃れられなさそうだ。
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佐藤直子●文 text by Naoko Sato
佐藤直子 プロフィール
群馬県出身。横浜国立大学教育学部卒業後、編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーとなり渡米。以来、メジャーリーグを中心に取材活動を続ける。2006年から日刊スポーツ通信員。その他、趣味がこうじてプロレス関連の翻訳にも携わる。翻訳書に「リック・フレアー自伝 トゥー・ビー・ザ・マン」、「ストーンコールド・トゥルース」(ともにエンターブレイン)などがある。